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第15話 

泣きじゃくる元カノを連れて先輩がマンションから出て行ったあと。 彼らの会話が聞こえそうな垣根の影に日下部と2人でしゃがんだ。 なるべく声を抑えて、日下部に話しかける。 「さすがに駄目だろ、暴力は……おい、聞いてんのかよ!」 「……うっさいな、正当防衛だもん。 それに個人的に前々から気に入らなかったし。」 「気に入らなかったら叩くのかよ。」 ちょっとついていけなくて、溜息をつく。 日下部はそんな俺の反応に不服そうだ。 でもそうだろう。 そもそも、よく考えてみれば俺は元カノに同情しちゃうね。 好きだと思って告白して、付き合えたと思ったら相手は全く自分には興味なくて。 一生懸命したおしゃれも、独りよがりだったと気づかされる。 情けなくて、腹が立って。 それなのに自分より仲がよさそうな女子が目の前をちらついて。 俺がもしあの子の立場だったら、どうしようもなくなった感情をぶつける先は決まっている。 納得がいかない、話がしたい。 それを言うだけでも、勇気が必要だっただろうに。 「あんたは元カノの肩を持つの?」 「ったく、何かと女子は敵だの味方だの区別つけたがるよな。」 「は?うざ。こっちの意見も聞かないで、善人ぶるのやめてよね。」 「言い分をぶつけるのは俺相手じゃねぇだろ。」 舌打ちをされる。 ますます気が合わない。 そもそも暴力的なやつは好きじゃないんだ。 その点では、先輩の元カノも苦手な範囲に入るのだけれども。 「あの人散々メグの悪口を言って、さらにあたしにまで陰湿な攻撃して来たんだよ? あたしが違うって言ってんのに、決めつけて陰でビッチ呼ばわりよ? 最終的に家までくるとかホント意味わかんないんだけど。」 「先輩が悪口を言われるのは仕方がないと思うけどな。」 「あんたにメグの何が分かんのよ。」 「たいしてあの人のこと知らないけど、彼女に振られる瞬間に現場にいたし。」 好きじゃないのにそういうことができる。 俺もそうだし、散々セフレとセックスして来たけど。 セフレと恋人じゃ、全然、事の重みが違うじゃん。 好きになれないのならどうして付き合ったりしたんだよ。 結局相手を傷つけるのなら、それが分かっていたなら、告白の時点できっぱり振ればいいんだ。 そうしたら、こんなことにならなくて済むのに。 「メグは人と同じように恋愛ができないの。」 「……意味わかんねーし。」 「好きって感情が分からないの! でも付き合ってみたらうまくいくかもしれないじゃん。」 「それって結局自分が寂しいだけじゃん。付き合わされる身にもなれよ。」 そう言うと、思いっきり叩かれる。 ほら、すぐ叩く。 細いくせに結構強くて痛い。 「自分だってそうなくせに。 御波くんたちが一気に自分の周りからいなくなって寂しいくせに!」 「……は?一緒にすんなよ。別に俺は……っ」 お互いをよく知らないのは俺たちも同じなのに、何知ったかぶってんだよこいつ。 俺は別に寂しくない、と言い返そうと口を開いたとき、 「こら、そこの2人。 何喧嘩してんの。仲良しだね。」 突然現れた先輩に2人で飛び上がる。 今の会話聴こえてた? どぎまぎしている俺とは違って、日下部は一瞬でけろりとしていた。 「もう終わったの、話。」 「ううん。 でももう遅いし、あの子送っていくから。 おとちゃんどうする?一緒に行く?」 「は?!い、いや、それはないです。」 この中で一番気を使ってんの、絶対俺だよ! あーあ、こんなことになるなら萌志たちとご飯食べておけばよかった。 あの二人、今頃布団の中でイチャイチャしてんのかな。 くそ、羨ましい。 俺もワンナイト狙ってもう一回街に戻ろ。 うん、アリだな。そうしよう。 寂しくないなんて嘘だ。 正直めちゃくちゃ寂しい。 でも、だからって俺は好きでもない相手と自分が寂しいからという理由で付き合ったりなんかしない。 そうと決まれば、さっさとお暇しないと。

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