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第3話 White Elephant
重い扉を押し開けると外の冷たい空気が入ってくる。足元から吹き込む冷気に身体が縮む。
道路を挟んだ相向かいの空き地には警察の遊撃車がいつもと同じように停まっている。
運転席には人形のように無表情な警察官が座ってこちらを見ている。
この寒さの中エンジンもかけない車の中は寒いだろうと思うが、若い警察官はこちらの動きを目で追いつつも顔さえ動かす気配はない。
下手に裏口から出入りするよりよほど安全だと可笑しくなる。警察に守られているのは市民なのか俺たちなのか。
入り口近くで眠っていたドーベルマンがのそりと起き上がると、背をしならせて伸びをした。そして気怠そうに奥へと移動した。
外に出ると鈍い光を放つ太陽が既に天辺を過ぎ去り、その位置を西の方角へと移動しつつあった。
明け方までかかった論文の所為で時間の感覚がおかしくなっている。
外に足を踏み出した時に、入れ違いで事務所に入ってきた男とすれ違った。背中を丸めたその男からは微かに機械油の匂いがした。
事業の失敗から手を出しては行けないものに手を出し、全てを失った男が、有るはずもない慈悲を求めてやって来たのだろう。
死んだ魚のような目をした男。かけられた保険金のために足を無くすのか手を失くすのか。
「馬鹿だ」
逃げられない運命なんて無い。追われたら追い払う。力とはそういうことだ。力のないものは力を持つものに虐げられ絞りつくされる。
……力が欲しい。
何者にも指示されない強い力が。
その力が今の自分にはない。まずは金だ、全ての力の基になるのは。何かを動かすのに必要なのは結局それなのだ。
どこか適当なところへ就職しろと親父はいう。ここには俺は不要という意味なのだろう。
「お前のように頭で考えてばかりいるやつには、向かない職業だ」と言われて育った。
それでも少しでも宇津木とつながっていたくて、子供じみた反抗を繰り返しながら踏みとどまっている。
別に物理的な力を得なくてもいいのだ、得るべきは人を動かす術とその元手。手に入れたいものだけは解っている。自分がすべての頂点に立った時、それは手元に舞い降りてくると信じている。
その時までは、無用の長物と言われようとしがみついてやる。
……宇津木が、親父の会社を受け継ぐのだろう。
その時にも俺の居場所はここにあるのだろうか。欲している力も得られず、進むべき道も見えない。自分の存在意義もすでにない。このまま霞んでいつの日か消えていくのだけは嫌なのだ。
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