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第8話 Black Day
がたがたと舗装されていない路面から振動が伝わってくる。変な形に折り曲げられた脚が痛み出す。向かう先がどこなのか告げられなくてもわかる、そしてそこから容易には出られないことも。
「降りろ」
制服かと突っ込みたくなるような黒いスーツに身を包んだ男が並んでいる。その中のひとりが偉そうに「降りろ」と言ったのだと思うが、拘束衣で顔さえ動かせないこの姿勢からどうやって立ち上がり下車すればいいのか教えて欲しいものだ。
誰かに荷物のように抱え上げられ、靴を取り上げられ肩に背負われた。
顔を左右に動かしてみたが、箱崎の姿は見えない。
この場所を二度と見るものかと誓ったはずなのに、また来てしまったとため息が出た。
ガレージから続く廊下に降ろされ、小突かれるようにして歩きながら、窓が無い廊下にここはあの地下なのだろうと考えていた。あの当時とは壁紙が変わっていた、それだけで雰囲気が全く違う。
奥の扉が開けると、そこには制服男よりは少しはましな身なりをした初老の男が待っていた。この部屋にもやはり窓はない。
「初めまして、颯馬様。お手伝いさせていただきます、片桐と申します」
丁寧で平坦な口調、感情のないロボットのようだ。
「大人しくしていただければ、その拘束衣も外せるのですが」
「この期に及んで足掻く気は毛頭ない」
こいつが何のお手伝いをするというのか分からないが、片桐は部屋の真ん中に陣取った大きな寝台に手をやった。
「そちらへどうぞ。抵抗なさる様でしたら残念ですが、人を増やさなくてはなりません。大人しくなさった方が宜しいかと存じます」
もう選択権はここには存在しない。毛足の長い絨毯を踏みしめながら進む。この部屋は、掃除も大変だろうと余計な事を考えていた。
スプリングのしっかりとした堅めのベッドに腰を下ろす。拘束衣を着ている状態では、その内側で自分の両手で自分を抱きしめるような不自然な恰好のままだ。
「おい眼鏡、あんな奴に使えるのが楽しいのか?」
「片桐でございます。仕事ですので、失礼いたします」
片野の手が拘束衣についている細い留め具にかかる、ベッドの脇で跪いているその男を蹴り飛ばせば何とか自由になれるのではないかと余計な事を考える。無駄だ、分かっている。ここからは出られない。
ふわりと身体が自由になる。立ち上がろうとしたら肩を押さえつけられた、見かけとは違う強い力に先ほどの考えが無謀だったと知る。
「なに?これ俺は何もするなってわけか?変なプレイだな」
「大人しくして頂き助かります。騒がれますとお怪我されますので」
乱暴に開けられた扉が開いた瞬間に壁に当たって大きな音を立てた。箱崎かと顔を上げるとそこにいたのは今朝見たばかりの顔だった。
「なあ、爺さん代わるよ、そいつのことならよく知っているから」
なるほど宇津木は正しかったわけだ。また「申し上げましたのに」と落胆するあいつの顔が浮かんでくる。
「ああ、龍欄か。ナニの世話までしてくれるのかここでは」
「驚かないんだね。もう、その必要はないでしょう。聖人様がいるから、どうしてこんな男を欲しがるのか理解できない」
「で?どうするんだ?」
「さあ?これ、持っていくように言われただけだから。面倒ごとには巻き込まれたくないんだけどね……まあ、いいか。面白いものが見られそうだから」
劉蘭の手にあるどこかで見覚えのある瓶。販売禁止、輸入禁止、使用禁止、所持禁止、問題が起こるたびに法は厳しくなる。それでもこうやって、どこからか入ってくる。そんなものだなと思いつつその茶色い瓶を眺めていた。
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