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第4話 オメガの学生。 相模side
EU諸国で事業を展開する部門を受け持つ、相模 エイジはEU離脱後でゆれる英国のビジネスマンに仕事柄、会うことが多く…
ロンドンの紳士服のテーラー が並ぶサヴィル・ロウ・ストリートの老舗で、オーダーメイドで作ったスリーピースを身につけ、相模はすきの無い完璧な紳士を演出していた。
英国留学の経験もあり、子供の頃から婚約してい妻と結婚するまでは、相模自身も英国の首都ロンドンで暮していた。
学長といくつかの問題事項を話し合うと、相模は次のスケジュールのために秘書をつれ、駐車場までの最短コースを選び、大学構内を横切ったところで…
不穏な会話が耳に入り、相模は驚いて立ち止まった。
「性的暴行を受けました!! 怖いから早く対処してください!!」
「まぁ!! 何があったか詳しく話してください…」
「・・・っ?!」
<何だって、性的暴行?! まさか大学構内でか?!>
話を中断させたくなくて、足音を立てないよう… 静かに声が聞こえた方向へ相模は近寄り、耳をかたむけた。
ガタガタと震えながら、その学生は青ざめた顔で、職員の女性に訴えていた。
「・・・?!」
<あの容姿はオメガか?! 珍しいな… この大学のレベルからして、相当努力して入学したのは間違いないな>
オメガの学生は、よほど動揺しているのだろう。
相模クラスの強いアルファが近くにいれば、オメガならばすぐに気配を察知し…
番 がいなければ本人の意志や抑制剤、服用の有無に関係なく、オメガの身体は本能で誘惑フェロモンを放出し始める。
おびえた学生は、オメガに間違いないが、相模にまったく気付かなかった。
オメガの学生と相談窓口の女性は、ガラクタが無雑作に積まれた小さな会議室へと移動し、クッションが劣化してやぶれた折り畳み式の椅子を出して腰を下ろした。
2人に気付かれないように、廊下側にある会議室の窓を少しだけ開き、下品な行為だと自覚しつつ… 相模は人を介して聞くよりも、本人の口から聞きたいと、2人の会話を盗み聞きした。
状況をさっした秘書も、無作法を咎 めたりせず、相模の隣で黙って盗み聞きのともをする。
「この学生証のアルファ性の学生が、あなたがフェロモンで誘ったと、言いがかりをつけて、強引に首をつかみ… お尻に性器を押し付けて来たのね?」
「はい… 僕は彼を挑発する気は無かったけど、あの時は… 僕が言いなりになると、彼に思わせたくなくて… 強い拒絶の言葉を使ったから、でも本当に犯されて、うなじを噛まれると思っから、それで怖くて…」
彼は泣き出し、あわてて職員の女性が側に置いてあった箱から、ティッシュを何枚も出して、手渡した。
「僕がオメガだというだけで、ジロジロと人に見られるから、昼食ぐらい落ちついて食べたくて、人気の無い場所で1人で食べていたら… あの人が来て、たぶん… 僕の後をつけて来たのだと思います」
相模は話を盗み聞くだけではたりず… 切れ長な一重の目で、学生の容姿に見惚れて、盗み見ていた。
健康的に日焼けをしたスラリとした、オメガらしい体格に、髪は少し色素が薄くサラサラとまっすぐで… 明るい茶色の瞳から、あふれる涙をぬぐう姿は、可哀そうだと思うのに美しく… 相模は目が離せなくなった。
おびえるオメガの青年が話した、襲ったアルファの名に、相模は覚えがあった。
<聞き間違いで無ければ、私の大勢いる従兄弟の1人のことだ… 確かに性根の腐ったあいつなら、やるかもしれない!>
「まぁ、何てことを…! 首のところ、指の痕 が… 痣 になってるわ、 証拠の写真を撮っておきましょう? ね?」
女性職員はオメガの敏感な首には触れないように、指を差して本人に痣の場所を伝えていた。
「え?! ああ、嫌だ!! チクショウ!!」
涙をティッシュでぬぐう青年の細い首には、痛々しい指の痕が女性職員の言う通り、くっきりと残っていた。
「・・・っ」
恐怖で身体を震わせ、涙を流す美しい横顔を見つめていると… カッ… と頭の芯 が熱くなり、相模の胸の中で怒りがうずまいた。
カシャッ… カシャッ… とスマホで証拠写真を撮影する音を聞きながら…
拳をぐっ… と握りしめ、相模はどうやって、従兄弟 に罰をあたえようか考えた。
<まずは大学を退学させないと!! 2度と被害を受けた彼の前に、不快な姿を見せないよう、配慮しなければ!! その後の処分方法は…>
自分の顎を指でつまみながら、相模はいくつかの案を思いつき… 上着の内ポケットからスマホを取り出し、早速母方の叔父に連絡を取る。
「叔父さん、私が面倒を見ている大学から、躾 の悪いあなたの息子を、引き取って下さい!」
《待ってくれエイジ君、急にどうしたと言うのだ?》
「1日でも遅れたら、今まであなたの事業に投資した分を、順番に引き上げるつもりです」
《理由は何だ? 今まで何も言わなかったじゃないか?!》
「私はとても不愉快な気分なので、私の忍耐を試すようなことは、しない方が良いでしょうね!」
《一体何なんだ! 理由を教えてくれないか、エイジ君?!》
「あなたの息子に、大学で今日の昼間、何をしたかを直接聞くと良い!! 私の用件は以上です」
《待っ…》
一方的に用件を話すと、相模は通話を切った。
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