親身になってマキの話を聞いてくれた、相談窓口の女性に、後日お礼を言いにたずねた時… 「大学の経営陣の１人に、社会的地位の高いアルファ性の人がいてね、その方が杉山君が怖い思いをしたことに、とても心を痛めていて…　相手方に直接、厳重に注意してくれたらしいのよ」 　相談窓口の女性がこっそり教えてくれた。 「その方にお礼が言いたいのですが？」 ＜正直、アルファに接触するのは怖いけど…　僕を助けてくれた人だから、きっと良い人のはずだよね？＞ 「とても忙しい方らしくてね…　私の上司を経由してメールぐらいなら転送してあげられるわよ？　先方のアドレスを、あなたに教えるわけには行かないけれど」 「本当ですか？！　それで、充分です！！　ありがとうございます！！」 　相談窓口の女性に、感謝の気持ちを表したくて、マキは腰を９０度曲げて頭を下げ、お礼を言った。 ＜いくら恩人でも、やっぱりアルファは怖いから、直接会うよりメールの方が良いし＞ 　アルファ性を持つ者は、その血に秘めた能力の高さから、社会的地位が高い家の出身者が多い。 　ゲス野郎アルファの実家も例外では無く、資金面で大学を支援することで… 　これまでは問題を起こしても、ゲス野郎アルファの退学を、回避していたらしい。 ＜息子がゲス野郎だと、その親もゲス野郎なんだね？！　本当に最低だよ！！　被害者の僕が襲われた時も、襲われた後も、おびえまくっているのに！！＞ 　大学に入っても変な誘いばかりで、ハリネズミのように警戒するマキは疑い深くなり… 　結局、期待した友人など1人も出来ず、大学に時々ボランティアでおとずれる、カウンセラーに愚痴をこぼすと、オメガのコニュニティーを紹介され、誰かと仲良くなれればと、顔を出すようになった。 　先輩オメガたちに、マキは大学でアルファに襲われた話をした。 「悔しいけどね…　付き合う気が無いのなら、極力関わらない方が良いよ！　恨みを買わないように、目を付けられないように、アルファには近寄らないのが、私たちには一番の自衛だから」 　今は無事に結婚して主婦をしている30代のお姉さんオメガが… 　昔、出会ったアルファのせいで、ひどい目にあった経験をいくつか話してくれた後で、マキにそう助言した。 「なんか聞いてると、アルファって…　ヤクザみたいだね？」 　思わずマキはそんな印象を、口に出すと… 「まぁ犯罪者では無いから、その点だけはマシかしら？」 　プハッ…　と吹き出すお姉さんオメガ。 「１００年前からあまり変わらないんだよね、アルファは…　今もオメガを自分たちの付属物ぐらいにしか考えて無いから、番(つがい)になるとそういう部分が、目立つようにになるんだよ」 　自宅で仕事ができるイラストレーターで、20代後半のお兄さんオメガは… 　付き合っていたアルファと番になったが、結局、別れることになり…　番から人工的に解放されるまで、心療内科で長期のカウンセリングに催眠療法、病院で投薬にホルモン治療と、とにかく苦労をしたらしい。 「マキ君はさ、ネックガード付けた方が良いよ？　格好悪いけどね、服とか会わせるの大変だし、でも間違った相手と番になると…　本当、後でキツイからさぁ～　お兄さんが良い店教えてあげるから、一度見て来なよ？」 　お兄さんオメガはマキが経験した、アルファ災難に心底心配し、そう助言してくれた。 「うん」 　お兄さんオメガの助言を素直に聞き入れ、マキはうなじを守るネック・ガードを首に付けることにした。 ＜自分の弱さをさらすようで嫌だけど、ゲス野郎にうなじをつかまれた時、悪戯(いたずら)に番にされたらと…　本当に怖かった！ 屈辱的だけど、あんな心配をするぐらいなら、プライドを曲げた方が良い＞ 　思い出すだけで、ぶるっ…　とマキの身体は震えてしまう。 　アルファはマキにとって、恋愛対象ではなく、マキを害する捕食者なのだ。 ＜今ならライオンに狙われる小鹿の気持ちが良く分かる＞