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第15話 温もり

「なんか… 本当にエイジさんと知り合ってから、僕の人生ガラリと変わってしまいました」  ニコニコと満足そうに、マキは相模に笑いかけた。 「君自身が、ちょうど変わろうとしていた時だったからだよ」  相模は目を細めて笑った。 「フランスにはどれぐらいの期間… 行くのですか?」  その姿に吸い寄せられるように、マキは相模に見惚れてしまう。 「短くても4,5年ぐらいだと思う… 元々私は、向こうの水の方が合っているから」 「そうか、英国に住んでいたのでしたね?」 <こうしてエイジさんと会うのは、これが最初で最後になるのかも知れない>  胸がヂクリッ… と痛み、急に切なくなって、マキは泣きたくなった。 「ああ、英国在住なのに、働いていたのはフランス系の企業だったけどね」  カラカラと笑う声に引かれて、マキは寂しくて、うっかり近づいてしまう。 「イケメン・アルファのエイジさんなら、フランスでもモテるんでしょうね? 次に日本へ帰って来た時は、フランス美人の奥さん連れなのでは無いですか?」  独身だと、相模自身に聞いていたから… マキは気軽さをよそおい、揶揄(からか)ってその気があるかどうか、探りを入れた。  スーツが似合う相模の広い胸を、指でつんっ… つんっ… つんっ… とつく。 「結婚はしない、1度失敗しているから…」  困った顔で、相模は自分の胸をつついて、悪戯(いたずら)するマキの指を捕まえる。 「バツ1なのですか?!」 <それは初耳、悪いこと言っちゃった!>  慌てて謝ろうと、マキは相模の顔を見上げると… 「・・・・・・」  難しい顔をして、相模は黙り込んでいた。 「エイジさん? あの、気に(さわ)ったのなら、ごめんなさい… つい調子に乗り過ぎて!」 <どうしよう、怒らせてしまった?!> 「いや…」  急に相模の口が重くなり、マキはやはりまずいことを言ってしまったのだと… もう1度、謝った。 「本当にごめんなさい! 生意気なことを言って… あの、エイジさん怒っていますよね?」 <嫌われたら、どうしよう!! どうしよう!! どうしよう!!>   相模に捕まえられた指の、反対側の手を、広い胸に置いて、もう1度マキは謝った。 「違うんだ、マキ…」  苦しそうに相模は否定するが… 「エイジさん?!」  不安そうに見上げるマキを、黙って見つめ… 相模は薄紅色に染まった頬を、大きな掌で柔らかく包んだ。 「エイジさん?!」 「違うんだ、私は… 私は!!」  相模が覆いかぶさり、マキの顔に影が落ちる。  自分に何が起きたか、マキには分からなかった。  マキの唇が… 柔らかな温もりで包まれ、すぐに離れて行ったが…  また温もりはマキの唇に戻り、今度は包むだけではなく…  ゆっくりと慈しむように、温もりでなでた。  少しずつ温もりがマキの唇から離れて行き… マキの唇を包み…  優しくなでた温もり… 相模の唇をマキは見つめた。 「・・・・っ?!」  ふわりと何かが、マキを圧倒する。  アルファのフェロモンだ。 <あ…  頭がクラクラする…?!>  膝がガクリッ… と崩れ、マキは立っていられなくなると、相模が抱き上げ、ベンチに運び膝の上に乗せて腰を下ろした。 「エイジさ…」  再び唇が重なり、マキの口腔へ相模の舌が忍び込み…    マキの舌と触れ合う。

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