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第18話 片思い。

 ぼんやりとベンチに座り、1人置き去りにされたマキは頭の中で、何度も… 何度も… 相模との会話を繰り返し…  何度も、何度も、相模のキスを思い浮かべ、()れてカサついた自分の唇に指先で触れ、相模の暖かで柔らかい唇の感触を思い出した。 <エイジさんの舌が僕の中で… 僕の舌をくすぐって… キスの味って、漫画で読んだことあるけど… あれがキスの味なんだ?>  口の中に“エイジの味”をとどめて置きたくて、掌で唇を隠すようにおおい、マキはそっと瞳を閉じた。 <それにすごく良い匂いがして… でも、本当は匂いだけじゃない、エイジさんの首筋からいっぱい… たぶん、あれが僕の出したオメガの誘惑フェロモンに反応したエイジさんが放ったアルファのフェロモン>  皮肉なことにオメガ自身は自分が放った、オメガフェロモンを感知することが出来ない。    だから、抑制剤を服用していないマキが、自分が大量のオメガフェロモンを放ち…  相模にフェロモンシャワーを浴びせかけていても、経験値がとぼしいマキには全く分からなかったのだ。 「僕がエイジさんのアルファ・フェロモンに誘惑されたように、エイジさんも僕のオメガ・フェロモンに誘惑され続けていたのだとしたら…?」  学食に相模が迎えに来てからずっと、マキの身体は熱くて性器もゆるく反応し、エイジに発情のサインを送り続けていた。   それはさすがにマキにも自覚があった。 「エイジさんはずっと僕の誘惑フェロモンを我慢していたんだ? だったら、あの時はあれ以上、間違いが起きないように、僕が突き放されても仕方が無かったのか…」  しょぼしょぼと反省し、マキはさらに落ち込む。 <それよりも… 来週には日本を立つと言っていたけど、それって僕がどれだけエイジさんを好きでも、上手く行かないということじゃないか?! …でもエイジさんは会わないでスマホで話すだけだから、今までは上手く付き合えたと、言っていたし… このままでも…>  大人の成熟したアルファには辛い話だ。  それぐらいは、性体験の無いマキでも薄っすらと理解している。 <今までと同じように付き合うのなら、キスは出来ない… でも、僕はもっとキスがしたい! その先のことだって、エイジさんとならしてみたい>  考えれば考える程、相模とマキの関係に、未来が見えない気がする。  マキ側が一方的に盛り上がってしまった恋だった。  つまり“片思い”だ。  初めての発情を迎えてから… マキが過去に何度も感じたことがある、手も足も出ない虚しい無力感に襲われた。  そこまで考え、相模の言っていた機械を通しての付き合いだったからという話が、ザクリとマキの胸を突き差す。  今度こそ、マキは相模に何を言われても、何も反論出来ないだろう。

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