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第19話 恋。

 大学で凹みに凹んで、鯉山君に慰められても、マキは浮上することが出来ず、暗い気持ちのまま帰宅した。  マキは自室にカバンを置き、浴室へ行き、身体を洗い昼間の憂鬱(ゆううつ)を流そうと熱いシャワーを長めに浴びた。  晩ごはんを済ませ、少しも集中できなかったが、課題の本を読み…  そろそろ相模からの連絡が来る時間かと、机の上を整理整頓しかたい床にペタンと座る。  連絡が来る時はいつも、マキの負担にならないようにと、相模は同じぐらいの時間にくれるのだ。  ゴゴゴゴゴ…   スマホが硬い床のうえで振動し、マキは取り上げ通話ボタンを押す。 「エイジさん…?」 《マキ、今は時間大丈夫か?》 「はい、待ってました」 <エイジさんは僕を好きだと言ってくれたけれど、それは気に入っているという程度なのだろう>  ついつい、子供みたいに昼間は喜んでしまったけれど、冷静に考えれば考える程、マキはキスをされて、自分が相模に過剰な期待を寄せていたから… という言葉に惑わされてしまったのだと反省している。 《昼間の話だけど…》  困難な事案は先に済ませてしまおうと、相模が話を切り出した。 「謝らないで下さいね、エイジさん… 分かっていますから」  マキは相模の言葉を封じた。 《マキ…》 「どんな理由でも、僕はエイジさんとのキスを、とても気に入ったし… それに良い経験にもなりましたから… 本当はもっとキスしたかったぐらいです、だから謝らないで下さい」  きっぱり、さっぱりとマキは、先に言いたいことを言い切った。 《わかったよ…》  どことなく相模は、ホッとした様子だ。 「エイジさんが言った通り、昼間は止めてくれて助かりました… バカみたいにすねてごめんなさい」 <頼りになるエイジさんが相手だったから、僕は甘えてしまったんだ… 今日が初対面だというのに… 恥ずかしい!>  自分のすごく子供っぽい態度が… 今、考えると本当に恥ずかしかった。 《君の方こそ、謝らないでくれ! 頼むから…!》  気まずそうな相模の声に、やっぱり子供っぽくマキは笑ってしまった。 「ふふふっ… はい!」 《やれやれ》    相模の呆れた様子の声に… 少し驚かせてやろうと、マキは小悪魔のようにニヤリと笑った。 「エイジさん、僕はやっぱりあなたが好きです! これだけは、もう1度はっきり言っておきますからね!」 《…マキ》  名前を呼び、相模は大きなため息をついた。  すごく困った声の相模に、何となくどんな顔をしているか想像ができてマキは嬉しかった。  やっぱり生の本人に会うのは大切なのだ。 「僕の片思いだと分かっていますから、安心してください! エイジさんに迷惑かけたりしませんよ」  帰宅した時は、どんよりと気持ちは泥沼に沈んでいたのに、今は相模にしっかり気持ちを伝えらえられた喜びで晴々とした気分だった 《私も好きだよマキ、だけど…》 「だけど? 恋では無いのでしょう?」 《いや、恋だ》 「嘘だ!」  思いもよらぬ嬉しい言葉が相模から即答で帰って来て、マキは驚き過ぎて信じられなかった。 《本当だよ、君が先に素直に気持ちを伝えてくれたから、本心を話すよ… その前に私の… 私の妻の話を聞いてくれるか?》 「…奥さんですか? 離婚した?」 《違う、自殺したんだ… まだ、21歳だった… 1年前の話だ》 「1年前…」 <亡くなって間もないじゃないか…!>  マキはすごく嫌な予感がした。 

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