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第29話 マキの覚悟。 

「私も君と同じように、限界だった… 私自身が決めておきながら、5年も待てなくて君を迎えに行こうかと悩んでいたところで、君に嫌われ逃げられてしまった… 痛恨の極みさ!」  見上げた相模の目には苦痛がやどり、マキが付けた深い傷が見えた。 「僕にもっと、忍耐と勇気があれば… あなたを傷つけずに済んだのに… ごめんなさい…」  心の何処かで、成熟した強いアルファはとても頑丈(がんじょう)で… 未熟なオメガのマキに、傷つける力があるとは、思いもつかなかったのだ。  だが、よくよく考えると… 妻フウカを亡くし、相模は深く傷つき、後悔していたことをマキは知っていたはずなのに、肝心な時にその大事なことが頭から抜け落ち、マキまでも愛する相模を傷つける存在になってしまったのだ。  強いアルファでもマキと同じように、深く傷つくのは当たり前で…  アルファは誇り高いから、傷ついた心を人に見せないだけなのだ。 <そんなことも分からないなんて、本当に僕は子供だった!> 「何年も前の話だし… 僕はあなたに酷いことをたくさん言って、一方的に縁を切ったのに… エイジさんはどうして鯉山君に相談されたからって、今更… なぜ僕の所に…?」  不安そうに、シーツをつかむ指をモジモジと動かしながら、視線をそらしてマキは相模にたずねた。  大きなため息をつき、相模は困った顔をする。 「だから君は、アルファの執着を分かってないと、言ったのだよ」 「そ… そんなに執着心が強いのですか?!」  モジモジするのを止め、マキは驚いて相模を見上げた。 「1度、自分の(つがい)にすると決めた相手を、簡単に忘れられはしないさ… 次を探す気さえ起きないのだから」 「あ…っ!」 <これは感情の問題と言うよりも、本能の問題なのかなぁ? 僕もセックス相手は探そうとしたけれど、番を探そうとは思わなかった… 僕もオメガの本能がそうさせていたの?!> 「マキ… 私の番は君だけだ! 他は要らない、君だけで良い」 「エイジさんは僕を愛人にする気は無かった? ええっと…?」 「確かに愛人と恋人も兼ねてはいるが… 君は私の(つがい)、つまり伴侶(はんりょ)だ! だから妻に決まっている!」 「ああ… なんだ…!」 <だから、さっきエイジさんは、すごく怒っていたのか…?>  同じことを相模に言われたら、マキでもどれだけ自分が真面目に考えているかを、疑われた気がして激怒するはずだった。  何年も待って、あきらめかけた時にようやく、お互いの関係が熟したというに… そんな風に言われたら、誰だって暴走してしまう。 <僕の大バカ野郎――!! 本当になんてバカなんだ僕は!!!> 「エイジさん! エイジさん…!! 僕も愛してる!! 今すぐ僕を、あなたの番にして!!」  手を伸ばし、自分のお尻をつかむ相模の大きな手を… ギュッ… とつかみ、マキは強くにぎりしめた。 「マキ…!! やっと言ってくれたな?! その言葉をどれだけ待ったか!!」 「エイジさん、お願い! 早くエイジさんの番にして――!!」  大切なことにようやく気づき、マキが覚悟を決めると… 不思議と恐怖も痛みもフッ… と消え、相模を早く奥まで受け入れて、番にして欲しくて我慢できなくなった。 

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