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第34話 同じ道を歩く

 相模(さがみ)は約束通りお昼に帰って来て、マキと2人で部屋でゆったりと食事を済ませると… おもむろに立ち上がり、マキの座る椅子の前で、絨毯(じゅうたん)の上に片膝をつき、上着の内ポケットから、シンプルなプラチナの指輪を出して、マキの左手薬指に素早くはめた。 「あっ?! 指輪?!」 「マキは華やかな美人だから、こういうシンプルなものが、似合うと思ったんだ」  満足そうにマキの薬指を見つめて相模はうなずいた。  次はマキの手首に婚約指輪代わりの、エメラルドが並んだプラチナのブレスレットを付ける。 「わわっ! 今度は何?! これ… 何か高価そうなんだけど…? えええええ?!」  相模の手ぎわは恐ろしいほど、良かった。  過去の経験から、少しでもマキに時間をあたえると、良くない結果になると学んだからだ。  表面的には大人の余裕を見せている相模だが、内心では必死にマキを自分につなぎ止めようとしていた。  そして最後の詰めに…  職人の手で丁寧に作られた、相模が愛用する日本製の万年筆を、テーブルの上にコトリッ… と置く。 「んんん? まだ何かあるの? エイジさん?!」  上着の内ポケットから封筒を出すと、中から書類を1枚抜き、マキの前に広げた。  “相模エイジ” の名前が記入済みの婚姻届け。  全世界の、結婚適齢期を迎えたオメガとベータ女性たちが見たら、(よだれ)をたらしそうな書類だ。  一瞬… 口をポカーンと開けて見下ろすが、マキはすぐに我にかえり、万年筆のふたを取り、サラサラと署名をして必要事項を記入する。  何度も、何度も、記入もれが無いか確認してから… フーッ… フーッ… と書き終わった署名に息を吹きかけ、かわいたかどうか、さわって指にインクがつかないのを確認し、婚姻届けを相模に手渡した。 「ありがとうマキ! これから死ぬまで君を愛し守ると誓うよ! 君を妻に出来て(ほこ)りに思う!!」 (オメガ性の場合、男性でも日本の法律では妻となるのだ)  男性にしてはほっそりとしたマキの手を取り、相模は結婚指輪をはめた手の甲にキスを落とすと… マキの(てのひら)を上に向けてキスをもう1度落とし、マキのものとおそろいの結婚指輪をのせ、相模は自分の左手をマキの前に差し出した。 「ふふふふっ… ねぇエイジさん? 僕の指輪よりも何倍も大きいけれど、この指輪って値段は同じなの?」  てれ隠しで、ついつい揶揄(からか)いの言葉を口に出すマキに…   相模はとろけるような笑みを浮かべた。 「さぁ? 2つ一緒に買ったから、1つだけの値段なんて興味無いな」 「ふふふふっ… それもそうだね!」  相模が差し出した手を取り、マキは指輪を大きな手の()っとい薬指に、躊躇(ちゅうちょ)なくはめると唇を寄せて相模の手の甲にキスを落とし、掌にもキスを落とす。 「こちらこそ、末永(すえなが)くよろしくお願いします! エイジさんと共に生きられることを、一生続く喜びとなるよう、努力すると誓います!」  出会ってから何年もかけて…  ようやく2人は、共に歩く道を選んだ。

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