「おはようございます川田さん、長い間、お休みしてすみませんでした！」 　ぺこりと頭を下げて、マキは先輩の女性社員に挨拶をした。 　先輩川田は、マキが新人時代の指導係だった人でベータの女性だが、マキがオメガだと知る数少ない社員のうちの1人で…　中学生と大学生の子を持つベテラン社員だ。 　マキが発情期になると、ほとんどの場合は、強い抑制剤でカバー出来ていたが…　時々、体調の加減で激しい症状が出ることがあり、そんな時マキはどこかの支店へ出張中という名目で、2～3日発情期休暇を上司の協力でこっそり取っていた。 　人事部から要請され、先輩川田も上司と共にマキの協力者となっている。 「あら杉山さん、　おはよう！！　身体は大丈夫なの？　今回はひどかったみたいね…」 「はい…」 　開口一番に身体の心配をされて、マキの心臓がドキリッとはねた。 　発情期のことを言われて、罪悪感でいっぱいになる。 ＜ううううっ…　まさか彼氏にホテルへ連れ込まれて、ずっとセックスしてました…　とは言えないし…　でも激しい発情期だったのは本当だけど…　うううっ！！＞ 　顔が真っ赤になったマキを心配して、先輩社員は心配そうな顔をする。 「本当に大丈夫？　まだ、終わって無いの？　難しい体質ねぇ…　あんまり無理してはダメよ？」 　純粋な親切心から同情と心配をされ、増々マキの罪悪感が大きくなる。 「あ…　あの…　川田さん、実は僕…　その結婚して…　それで発情期が長引いて、休みも長くなって！」 「ええええっ――――？！！！」 　驚いた先輩川田の視線が、マキの左手の薬指で光る結婚指輪に引き寄せられ、ついでに手首のワイシャツの袖で隠れていた、チラリと見えるエメラルドの並んだブレスレットへと移る。 「す…　すみません！　僕も本当に予想外のことで…　休みを取る前は、本当にこんなに急な話になるなんて、想像もしていなかったので、僕も戸惑っています」 　しどろもどろで説明するマキの手を取り、先輩川田はじっくりと結婚指輪と、婚約指輪代わりのブレスレットを観察する。 「あら、あら、あら、あら、あらららら――――っ…　素敵じゃないの！　おめでとう！！」 　先輩川田の叫び声で、同僚たちや上司までが、何だ？　何だ？　と興味津々で集まって来て…　なぜかご満悦の川田が、自慢げにマキの手を持ち上げて、集まって来た人たちに指輪とブレスレットを見せた。 「ちょっと見て！　杉山さん結婚したんですって！！」 「嘘――っ！！　ヤダ、杉山さんが？！　私の癒しがぁ！！」 　後輩の女性社員は悲鳴を上げるが…　これで女の子たちも、少しは落ち着くだろうと、独身の男性社員たちはそろってホッ…　とした顔をする。 　実はマキの知らないところで、高校時代の悪夢に似た行為が、女子社員のあいだで繰り広げられていた。 　高校時代と違うところは、“杉山マキ、見守りサポート・クラブ”　は、知的な大人女子たちを中心に結成されているので、マキに迷惑をかけ嫌われたりしないように、プライバシーはしっかり守られている。 　だが、完璧にプライバシーが、守られているというわけでは無い。 　クラブのメンバー（見守りサポーター）たちは全員、マキがオメガだと知っている。 　なぜならマキの信頼する先輩川田こそが…　“見守りサポート・クラブ”の発起人であり、会長を務めているからだ。