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第37話 問うに落ちず語るに落ちる。

「おめでとう、杉山さん!」 「恋人はいないと言っていたのに、どこに隠していたんだ?!」 「相手はどんな人?! きゃ――っ! 私にも指輪見せて下さい!! 」  同僚たちから祝福の言葉と共に、質問が次々と飛んで来て、マキはパニックになりかける。 「ええっと… 大学時代に出会った人で、その人と再会して… その人に結婚しようと言われて… あの… 僕もまだ、慣れてなくて…」  上手く言葉がつむげなくて、あたふたとマキは身振り手振りを加えながら答えた。 「ああ、もしかして!! 復縁したというパターンですか?!」  後輩の女子社員は、てのひらをこすり合わせて、何もかも全部聞き出してやる! という意欲満々の顔つきで、マキを質問攻めにする。 「ええ… まぁ、そうかなぁ…?」   マキはコクッ… コクッ… とうなずく。 「杉山さんは別れても、ずっと好きだったとか?」 「う… うん、僕は… ね…?」   モジモジと指を組み合わせて、マキは赤い顔を伏せる。  いかにもモテそうな華やかな容姿の男性なのに、マキのこうした可愛い態度が、女子社員たちのハートを鷲掴(わしづか)みにして キュンッ… キュンッ… させていることに、マキは全く自覚が無かった。 「きゃあああああ――――っ!! ごちそう様!! もう、お腹いっぱい!!」  後輩女子がいきなり叫び声を上げ… 驚いたマキは、ウサギのようにギョッ… と飛びはねた。 「オイ、何だよ朝からキィ――ッ… キィ――ッ… うるせぇな!!」  ドサッと椅子に座りながら、社会人とは思えない乱暴な口調に驚き、マキは声の主が誰か確認しようと、声がした方を見た。  机に革靴をはいたデカい足をドンッ… と乗せて、男はマキの席につき… 不貞腐(ふてくさ)れたゲス野郎アルファが、マキをにらみつけて来た。 「…っ?!」 <エイジさんの従弟?! ゲス野郎アルファがなぜ?! 確か即刻クビにされたはずなのに!! 何でここにいるんだ?!> 「何だ、やっぱりお前かよ、尻軽オメガ?! フェロモンまき散らしてベータまで、タラシ込む気かよ?」  ゲス野郎はマキをにらみつけながら、唇を不穏にゆがめて暴言をはく。  さっきまでマキを質問攻めにしていた、後輩女子がハッ… と息をのんだ。 「・・・っ!」 <このゲス従弟!! 僕がオメガだとみんなの前で、勝手にバラしたな?! クソッ!!>  マキの手が、怒りでブルブルと震える。 「止めなさい下田君… 杉山君は君の先輩だ、口をつつしみなさい!」  マキの上司が口をはさみ止めようとするが… 「エイジ兄さんに言いつけて、やろうかなぁ? 可愛がってる、尻軽オメガが浮気してるって!」  ニヤニヤと笑い、子供のような嫌がらせをするゲス従弟に… 黙っているのが耐えられず、マキは口を開いた。 「…いきなり、初対面の相手にセクハラするゲス野郎の言葉を、誰が聞くのさ? 本当に残念だね、君… アルファの遺伝子が無駄になったみたいだよ? ご両親が気の毒だ、まぁ僕には関係ないけどね」  つらつらとマキは辛辣(しんらつ)な嫌味を放った。 「この野郎!!」  足を床に下ろし、ノシッ… ノシッ… とマキの前に来て、ゲス従弟は大柄な体格をいかし脅すように立つ。  一瞬、マキはひるみそうになるが、ググッ…とこらえて(こぶし)をにぎりしめ、ゲス従弟をにらみつけた。 「何の用? セクハラ野郎!!」 <すごい!! こんな間近にいるのに、全くアルファのフェロモンを感じない! これって僕に“番”が出来たからだよね?!> 「お前の方が、エロいフェロモンまき散らして、あんなところで寝てるから悪いんだろう?!」 「あそこは休憩スペースだし、僕も大いびきをかいて熟睡していたわけじゃない、薬の副作用で起こる強い眠気が落ち着くまで、休んでいただけだ!」 <わぁ~っ!! アルファが目の前にいても、影響受けないって… なんて素晴らしいんだ!! ああ、でもエイジさんが相手だと、逆にすぐ発情しちゃうんだよねぇ~!>  この場であまり関係ないことで感動するマキは… 急にゲス従弟のことなんか、どうでもよくなる。 「どう見てもお前が男を落とそうと、罠をかけていたようにしか見えなかったぜ?!」 「そんなクダラナイ話、どうでも良いよ! 君と話すの面倒になって来た」 「何だと?! この野郎!!」  顔を真っ赤にして、ゲス従弟がマキの胸倉をつかもうとした時… 「“問うに落ちず語るに落ちる“ だなカズヤ!!」   ゲス従弟の真後ろに、いつの間にか立っていたマキの夫。

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