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第2話-3
清明は兵舎を通り越した所にある草はらの中に居た。陽の落ちた空に満天の星を背負って立つその姿に、やはり『凛』という一文字が浮かんでくる。
解かれて、神秘的に揺れる白いマフラーが凛には神の纏う衣のように見えた。
「あのっ不知火っ…」
噛んだ。
あまりの存在感に、圧倒的な美しさを目の前に、追いかけてきたものの凛は戸惑う。
「田中凛と言います!先程は不知火っ…」
また噛んだ。
『飛来神』と呼ばれる男を目の前にした緊張と、その人に褒められた嬉しさと、今まで役にたたないと思っていた自分のことを救ってくれた優しさと…色んな感情が凛の中に渦まく。そして、喉の奥が熱くなって、視界が歪んだ。
「凛か、綺麗な名前だな」
清明が凛の頭に自分の手を置いた。そしてポンポンと子供にするように頭を撫でる。
「俺っ…ありが…」
言葉と一緒に涙が溢れた。好きな勉強も止めて、お国のためだと赴いた戦地。出来ないことばかりで本当は辛くて泣きたかった日々。
凛は清明を見つめたまま低く嗚咽を漏らした。
「はは、泣き顔が弟に似てる」
笑った!
微かだったが確かに笑った。清明の笑顔を見たのはその時が初めてだった。月明かりに照らされたその顔は同じ男から見ても美しかった。
清明はマフラーを外すと凛の涙を拭った。
「だ、駄目です…汚れます!不知火っ…か…」
ああ、また噛んだ、と凛が思った時、清明が今度は声を上げて笑った。
「あはは、いいよもう。感謝してるのはこっちなんだから」
ぼたぼたと落ちる涙を、その神の衣でゆっくりと清明が拭ってくれる。
「それから、清明でいいよ。名前で呼んで」
そう言われて、もう凛の涙は止まらなくなった。それを見てまた清明が笑う。
そうやって二人の距離は縮まった。
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