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第4話-3
清明が座ってと促した。凛は座るというよりも膝から崩れるような形で腰を下ろした。
「父は早くに亡くなった、体が弱かったから。俺は母と弟と三人で暮らしてきた」
自分は座らずに、目線を前に向けたまま清明が話し始める。夕日が地平に落ちて紫の空が広がり始める。
「酷い差別を受け続けていた。特に戦争が激化し始めてからは男手がないことが悪のように言われていた。俺もまだ出来ることなんて少なかったし、弟は小さかったし」
「…はい」
ちゃんと聞いているということだけは伝えたくて、喉から絞り出すように凛が返事をする。
「何か物が失くなればうちのせいにされたし、憲兵沙汰にされるようなこともあった」
穏やかに話しているように見えるが、辛い記憶に清明の声は時々震えた。
「それでも俺がしっかりできる歳になれば少しは母も弟も楽にしてやれると思ってた。でも…軍人になるのは迷っていた。近くで助けられなくなるから」
迷っていた?
凛は以前伊藤から『清明は志願した』と聞いていた。そして今軍人としてここに居る。清明の次の言葉は凛には怖くてたまらなかったが、それでもじっと清明を見上げて目を逸らさなかった。
「…ある日、学校から帰って戸をあけると、母が天井からぶら下がっていた」
「!」
清明が目を閉じる。
「その足元には首に帯が巻かれた…多分母が締めたんだろう、弟が転がっていた」
凛の体がガクガクと震え始める。
「具体的に何かあったのか、それとも今までのことを含めもう耐えられなくなったのか…分からないままだった。どうして俺を連れて逝ってくれなかったのかも」
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