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第4話-4

 二人の頭上に漆黒の夜が降ってくる。  その壮絶な記憶。  唇を震わせたまま、何も言うことが出来ない凛を清明が見下ろす。そしてその瞳をじっと見据えた。 「皆殺しにしてやろうと思った」  凛の両手が足元の草を掴む。 「でもあしらわれるように殴り返されて終わりだった」  力の入った凛の指が土にめり込む。 「いつも言われていた『国のために戦っている軍人』に俺はなろうと思った。村の奴らに何の役にもたってないと言われ続けた俺が、戦闘機に乗ってやろうって」  凛が小さく頷く。清明の目はまだずっと凛を見たままで、凛もその瞳を見上げたまま清明の言葉を受け止めていた。 「そして村を爆撃して焼き尽くしてやろうって思ってた。本気でそう思って志願した」 「…っ」  こらえきれず、凛の目から涙が溢れる。ぽたぽたと地面に落ちては吸い込まれていく。 「上からなら誰にも邪魔は出来ない。命令を無視して村の上まで飛んで行って、全員焼き殺してやろうって」  しばらく清明は凛の涙を見ていた。『弟と似ている』と言われたその泣き顔を、凛は俯くことなく清明に向けていた。 「最低だろ?」  そう言って清明がしゃがんだ。凛と同じ目の高さに、清明の瞳。 「凛」  清明が凛の名を呼ぶ。その声はとても優しくて、さっきまでの記憶をたどる清明とは違っていた。その大きな手が凛の涙を拭う。 「ごめんな」 「清明さ…」  立ち上がると、清明は兵舎の方へ戻って行った。  凛は草の中へ突っ伏した。さっきよりも強い力で掻いた指は地面に深くめり込んだ。そして大声を上げて泣いた。

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