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第5話-2
「正式に海軍パイロットになった時も、俺は自分の復讐を全うしようと思ってた」
「うん」
ベッドに腰掛けて話す。橙色の光だけが二人を照らす。
「本当に飛んで行ったんだ、命令違反覚悟で」
「うん」
「…地獄を見た」
ポツリと清明が吐き出す。
「空襲の直後だった。自分の住んでた村が炎で覆われてて、焼け焦げた人たちが何人も見えた。断末魔の叫び、火傷に耐えられず池に飛び込んで浮かんでくる死体…」
「うん」
「ざまあみろと思えなかった」
今清明の目に映るのは、きっとその時の記憶だろう。寄せた眉が、うっすら浮かぶ汗が、苦悶を表している。
「逆に俺はこんな地獄絵図を作り出そうとしてたのかって…怖くなって…そして」
清明が両手で顔を覆う。
「戦争が憎くなった」
「…うん」
その時清明は悟ったのだ。戦争が生む、人の心の醜さを。
村の人たちは隣人を蔑むことで戦地に赴いた愛する人への死の危惧や、貧困や、恐怖や、そんなものから逃げていたことを。
「もちろん、村のみんながやった行為はゆるされるものじゃない」
小さな清明の声は、だけど大きく部屋に響く。
「でも、復讐をして…戦争と同じように俺がこの地獄絵図を作り出すことを、母や弟は望むだろうか…そう考えると、そんな気持ちで飛行機乗りになった自分が愚かで滑稽で…」
凛が清明の背中をそっと撫でる。清明はゆっくり顔を覆っていた手を下ろした。
「母と弟を守れなかったのは俺の弱さなのに」
清明が自嘲気味に笑う。凛が首を横に振る。
「本気で国の為に戦い、誰かを守るために戦闘機に乗る、俺はそんな兵士を沢山見て来た。そして散っていった者たちも…」
だから、と言って清明は壁に掛けられた白いマフラーを見た。戦闘機乗りの証。
「俺はその日から愚かな目的でパイロットになった償いをしようと思った。特攻という作戦が現実味を帯び始めた時、真っ先に志願した」
凛が唇を噛む。清明の背中に添えた手が、清明のシャツを握る。
「戦争を止めるなんて大それたことは出来ない。なら…俺にはもう失うものなんて無いから、守れなかった家族の代わりの『誰か』のために死のうって」
「敵機に躊躇いなく突っ込んでいけたのは、本当はいつ死んでもいいと思ってたからですね?」
凛の問いに清明が頷く。
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