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【1日目】子ども用の車?

 ホテルを出て、駐車場まで来ると、文維はア然とした。 「子供用の車ですか?」 「なんでやねん!」  日本ならではの「軽自動車」を前に、文維は戸惑いを隠せない。こんな小さな乗り物に、上背のある男3人が乗れるのだろうか、と心配になる。 「仕方ないでしょ。私、これしか乗れないし…。これより大きな車なんて、怖くて運転できないもん」 「じゃあ、私が…」 「「「不行(ダメ)!」」」  上海で運転免許を取ったばかりの煜瑾が手を上げたが、他の3人が一斉に反対する。 「国際免許証、持って来たんですよ。日本でレンタカーを借りる方法も調べてあります…」  圧倒されながらも、煜瑾は寂しそうに言う。 「でもダメ!日本と上海じゃ、いろいろ交通ルールが違うから」 「ダメです!慣れない道で、煜瑾が怪我でもしたら困ります」 「ダメったらダメ!煜瑾なんだから、そんなことしちゃダメなの!」 「……」  3人に一斉攻撃されて、煜瑾はちょっと不満そうに唇を噛む。 「ま、とにかく近くだから我慢して」  茉莎実がそう言うと、仕方なさそうに文維と煜瑾は頷いた。 *** 「ま、まあ、思ったよりは広いけど…」  車の後部座席に並んだ文維と煜瑾は、ピタリと寄り添い、少し恥ずかしそうだ。  留学生時代に、友達の運転する軽自動車に何度も乗ってきた小敏は、狭いながらも慣れた様子で笑っている。 「お肉か、お魚か、どっちがいい?」  ハンドルを握った茉莎実が余裕のない様子で訊ねると、小敏が後ろに顔を向けた。 「焼肉とお寿司、どっちがいい?」  小敏は茉莎実が行こうとしている店を知っているらしく、より具体的に文維と煜瑾に聞いてみる。 「あ、ちなみに回転するからね」  茉莎実の追加情報に、煜瑾の顔色が変わった。 「お寿司がいいです!」  日本の回転寿司が、大のお気に入りの煜瑾の要望に反対するものは誰もいなかった。

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