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【1日目】回るお寿司屋さん

「なんか、イイ感じ」  店内に入ると、小敏が煜瑾に囁いた。  先頭に立った茉莎実が店員と何か交渉している。 「今夜は、私がお支払いしますよ。遠慮しないで食べて下さい」 「ありがとうございます!」  文維の気前のいい申し出に、茉莎実と小敏はホクホクした笑顔を抑えきれない。  茉莎実のお願いが聞き入れられ、一同はお寿司が流れてくるレーン沿いのボックス席に案内された。 「あ!お寿司が流れてきますね」  屈託なく、キラキラした瞳で、煜瑾はレーンを流れるお寿司を見つめている。  文維は、反対側のカウンター席に、欧米系の観光客らしい何組か座っているのに気付いた。奥の座敷席の方から賑やかな声が聞こえると、それは中国語だった。 「海外のお客様が多いですね」  文維と煜瑾が並んで座り、その向かいに小敏と茉莎実が座った。  正面に座った文維に訊かれた茉莎実は、大きく頷いた。 「同じホテルの宿泊客だと思いますよ。海外のお客様がお寿司を食べたいって言うと、ここを紹介するらしいので」  確かに、日本人が大好きな低価格のチェーン店とは少し違った、落ち着きのようなものがある。 「ねえねえ、小敏!もうお寿司を取ってもいいですか」  上海にも回転寿司店はピンからキリまであるのだが、煜瑾のような「唐家の至宝」がそのような庶民的な店に行くことはならぬ、と、兄や執事から止められているのだった。  けれども、美味しいお寿司が、まるで「食べて下さい」とでもいうように流れてくる、エンターテイメント性のあるスシ・レストランを、前回の京都旅行で経験して以来、煜瑾はすっかりお気に入りなのだ。 「流れてくるお寿司だけじゃなく、メニューにあるお寿司も注文できるよ。今日のおススメっていうのも、あるし」  小敏は気を利かせたつもりだが、煜瑾は流れてくるお寿司を、自分の手で取りたくてたまらないのだ。 「好きなのが来たら、取っていいわよ、煜瑾」  さすがに、茉莎実は煜瑾の気持ちが分かるらしく、大らかに勧めた。それを嬉しそうに受け止め、煜瑾は流れてくるお皿を真剣に見つめ始めた。 「あ、煜瑾!そのイカのお皿、私にとって!」  どのお皿を取ろうかと、躊躇している煜瑾のために、茉莎実は急いでお願いした。 「はい!」「ありがと!」  使命感に燃えた煜瑾は、狙いを定めて「イカ」のお皿を取り、茉莎実に差し出した。  満足そうな煜瑾に、文維や小敏はホッとした。 「ん~、やっぱり煜瑾のようなイケメンに取ってもらうと、より美味しく感じるよね」  茉莎実が満面の笑顔で感謝すると、煜瑾も自信を持って自分のお寿司に狙いを定めた。

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