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【1日目】生簀のエンタメ

生簀(いけす)もあるのですね」  文維がカウンターの奥の水槽に気付いた。  誰かが注文したらしく、寿司職人さんが生簀の中に網を入れて魚を取り上げようとしている。  文維の言葉に煜瑾は顔を上げ、少し羨ましそうに見ている。 「伊勢海老、いるねえ」  小敏がニタニタしてそう言うと、文維は優しく微笑んで頷いた。 「すいませ~ん。生簀の伊勢海老をお刺身にできます?」  茉莎実が気を利かせ、日本語で女性の店員さんに声を掛ける。するとカウンターの中の職人さんが、小気味よい勢いで返事をしてくれた。 「できますよ。ご注文されますか」 「はい」  日本語は分からないなりにも、煜瑾はパッと目を輝かせた。 「煜瑾、そっち側から撮影できる?」  小敏が声を掛けると、煜瑾は慌てて生簀の方へタブレットを向けるが、角度が悪いのか、ちょっと困った顔をする。 「こちらでいいですか?」  網を手にした職人さんが気付き、立ち位置を変え、カウンター内の職人さんたちも作業をしながら体の向きを少し変えて協力してくれる。 「ありがとう」「すみません、すぐに済ませます」  小敏と茉莎実は、職人さんや他のお客様に日本語で頭を下げるが、誰一人イヤな顔をする人はいなかった。 「さあ、行きますよ」  職人さんの威勢の良い声に、煜瑾も思わず笑顔で頷く。 「わ~」  手早い職人さんの作業に、店内から声が上がり、拍手が鳴った。思いがけないエンターテイメントに、煜瑾も頬を紅潮させ、周囲の優しさに感謝した。 *** 「はい、お待ちどう!」  姿造りにされた海老が、4人が注目する中、ボックス席のテーブルの前にドン!と置かれた。  すると向かいのカウンターにいたはずの西洋人がカメラを持って駆け付け、写真を撮らせてくれと頼んできた。  煜瑾たちが快く許可をすると、続けて日本人女性のお客さんまでが写真を撮りたいと申し出てきた。しかし、それは伊勢海老の写真ではなく、文維、煜瑾、そして小敏らイケメンの写真が欲しいとのことだった。  小敏がそれを丁寧に対応し、文維と煜瑾の写真は断った。  煜瑾のような名家の「深窓の王子」の現在地が知られることや、むやみに顔が広まるようなことは、上海唐家の当主であり、弟を溺愛する唐煜瓔が許すはずが無いからだ。それは愛する弟への独占欲などではなく、有数の富豪であるがゆえに誘拐などの犯罪に巻き込まれるのを警戒しているからだった。 「ボクの写真なら、何枚でもいいよ~」  彼女たちをガッカリさせないよう、サービス精神旺盛な小敏は何枚も撮影し、アイドルのように握手までした。

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