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【2日目】いざ、出発!
「すご~い、キレイ~」
「フルーツがいっぱいですね~」
文維の前に置かれた朝食は、パンケーキだけでなく、フルーツが盛られ、ヨーグルトも添えられ、野菜サラダも付いている。
和定食とはまた違う華やかさがあるパンケーキセットに、小敏も煜瑾もテンションが上がる。
2人の反応に、文維は笑いながらパンケーキにナイフを入れ、フルーツも一緒にフォークで刺した。
「はい」
そのフォークを、そのまま煜瑾の前に差し出し、文維は言った」
「味見をどうぞ」
煜瑾は驚いて、すぐに恥ずかしくて真っ赤になったが、それでも急いでパクリとパンケーキとフルーツを口に入れた。
「いいな~」
小敏が本気ではなく、冷やかすように言うと、文維は同じようにフォークにパンケーキとフルーツを刺して差し出す。
「いいの、煜瑾?」
小敏は文維ではなく、煜瑾に許可を求める。煜瑾が、今さら自分に嫉妬するような狭い心の持ち主とは思ってはいないが、誰よりも文維を大切に思っている煜瑾の気持ちを尊重したい小敏だった。
「もちろんです」
煜瑾が無邪気にニッコリと答えると、小敏も柔らかく笑った。そのまま、ふざけた様子で大きな口を開け、小敏もパンケーキを味見した。
「美味しいね」
3人は、顔を寄せ合いクスクスと楽しそうに笑い合った。
煜瑾が昨日言った通り、美味しい朝食をたっぷりと時間をかけて味わい、幸せを噛み締めるように笑い合った。
***
「わ~、今日もみんなイケメンだね~」
迎えに来た茉莎実は、3人の私服姿に満足そうに大きく頷いた。
文維は、タイトなブラックデニムで、ただでさえ長い脚を強調しているように見える。上は文維にしては珍しく明るい桜色のTシャツに、オシャレな白黒の格子のブルゾンを着て、とてもカジュアルで、お堅い精神科医とはとても見えない。靴も見慣れない白いスニーカーだった。そこにベージュのキャップを被っているので、いつも以上に若々しく見え、学生と言っても通じるかと思える。
個性的なファッションを好む小敏は、ハッキリと目立つピンクのTシャツにグリーンのパーカーで、下はカーキ色の今人気のカーゴパンツを履き、靴は深いブラウンの皮のサンダルだ。派手派手しく幼稚にも見えるコーデだが、なぜか色白で童顔の美少年タイプの小敏が着ていると、何となく様になるから不思議だった。
名家の王子さまである煜瑾はさすがに品があり、クリーム色のボタンダウンシャツにネイビーのカーディガン、ベージュのチノパンを合わせている。いかにも優等生、いかにもお坊ちゃまという出で立ちだが、実際に王子さまで、優等生で、お坊ちゃまである煜瑾にはピッタリだ。ただ、靴だけは文維とお揃いのスニーカーだった。手には小ぶりの麦わら帽子を持っている。
そしてイケメン3人組は、今日も狭い茉莎実の軽自動車に乗り込んだ。
「太秦に向かって、行くぞ~!」
茉莎実が気合いを入れるが、その気合いこそが何となく不安な文維たちだった。
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