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【2日目】国宝・二の丸御殿

「わ~、虎だ~」  入口から最初の遠侍の三の間で4人を出迎えたのは、竹林に戯れる虎の襖絵だった。絢爛な金地に清冽な竹の緑が映える。そこに獰猛な虎が大胆に描かれている。そのインパクトに、小敏もビックリして目を奪われた。 「勇壮な絵ですね」  煜瑾はその迫力に飲まれたように思わず呟いた。 「権力者に威圧されているような気がします」  文維は笑いながらそう言った。 「まあね~。ここは江戸徳川家の京都でのお城だもの。最初にド~ンと、権力の大きさを見せつけておこう、と思うんじゃないかな」  茉莎実の適当な解説にも、煜瑾は大きく頷いた。  そこから、さらに中国の九曲橋のようにクネクネ曲がりながら奥へと進む。そこには有名な大政奉還を宣言した大広間があった。 「ほら、畳に段差があるでしょう?あの一段高い所に将軍が座るんだよ」  茉莎実がそう言って指をさすと、煜瑾たち3人が覗き込んだ。 「将軍の後ろの松の木も素晴らしいですが、あの襖の上にある彫刻が、また見事ですね」  煜瑾は目につきにくい欄間(らんま)にまで視線を送った。 「あれは、透かし彫りになっていてね、こちらから見ても綺麗だし、裏から見ても綺麗なの」 「とっても華やかで、豪華だよね~」  小敏も感心して、なるべく近くに寄って見ている。  この二の丸内では写真撮影が禁止のため、しっかりと目に焼き付けておく必要があるのだ。 「どれも黄金に輝いて、当時はさぞ荘厳で眩いものだったでしょうね」  芸術に関心が無かった文維までもが、往時を想像している。 「とにかくキンキラキンなのは狩野派、と覚えておけば何とかなる」  そんな適当なことをいう茉莎実を真に受けたのか、煜瑾は忘れないよう復唱する。 「この豪華な絵画の流派は、狩野派…なるほど」  二の丸御殿を端から端まで堪能した4人は、一度外に出て、次の順路となる本丸御殿の庭園へと向かった。  現在、本丸御殿は改修中で残念ながら内部は見学できない。  それでも、二の丸御殿から本丸御殿へと続く庭園もまた、歴史的、芸術的価値が高く、清々しい美しさで見学者を心地よくしてくれる。  その庭園を、4人がゆったりとそぞろ歩いていた時だった。 「ねえねえ、煜瑾?」  スマホをいじっていた小敏が、いきなり甘えるように煜瑾に声を掛けた。 「どうしました、小敏?あ、オヤツの時間が遅くなってしまいましたか?ごめんなさい」  煜瑾がそう言って笑うと、小敏はとんでもないというように首を横に振った。 「そうじゃなくて~。煜瑾は、抹茶と和菓子がどうしても食べたい?」 「は?」  小敏の言いたいことが分からず、煜瑾だけでなく、文維や茉莎実もキョトンとして小敏のあざとい笑顔を覗き込んだ。

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