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【2日目】最後に収蔵館へ

 美味しいものを食べて、元気になった4人は、最後に、煜瑾が楽しみにしていた修復した本物の障壁画を展示している「展示収蔵館」に向かった。 「あ!刀がある!」 「忍者の刀ですか?」  太秦の映画村で忍者にハマったらしい煜瑾は、小敏よりも嬉々として覗き込んだ。 「違うみたいだよ…」  苦笑する小敏に、少しがっかりした様子で笑いかけ、煜瑾は文維と茉莎実にも肩を竦めて見せた。  けれど、修復された障壁画をパネルにして並べた展示室に入ると、煜瑾は急に真剣な眼差しになり、口数も減る。  それを邪魔しないように、先ほどの色鮮やかなレプリカとの違いもよく分からない3人は、ソッと離れて煜瑾を見守った。  煜瑾は、そこに展示されている歴史を重ねた本物の芸術に、すっかり心を奪われていた。  往時の煌びやかさを復元したレプリカを見たあとで、修復された本物を見ることは、煜瑾にとって、ただの造形を愛でる芸術鑑賞だけでない。これらの美術作品が当時の人々や歴史的情景を実際に見守っていたという「事実」が、煜瑾のような文学青年には、この上なくロマンティックに感じるのだ。 「ありがとう。みんな、待たせてゴメンなさい」  満ち足りた様子で、煜瑾は振り返った。 「煜瑾が楽しいなら、ボクたちも嬉しいよ」  小敏が、そう言って優しく受け入れ、文維は愛しい人の手を取った。  そのまま温かい雰囲気で、4人は二条城を後にした。 「この後は…。あ、お祖母(ばあ)ちゃんからメール来てる。ウチにおいでって」  愛車の軽自動車に乗り込もうとした茉莎実が、祖母からのメールに気付いた。 「前回、お邪魔した時は、茉莎実さんのお祖母さまには、本当に良くしていただきました」  煜瑾が懐かしそうにニッコリすると、小敏も頷いた。 「せっかくなので、ご挨拶をしたいです」 「お祖母ちゃんも、イケメンでお行儀が良い煜瑾たちにまた会いたいって」  茉莎実の言葉に、煜瑾も小敏も嬉しそうだ。それを見て、茉莎実は文維を振り返った。 「それと、煜瑾のイケメン彼氏の顔も見たいって」 「私?」  文維は驚いて目を見張る。それがクールな文維にしては、(いとけな)く見えて、どこか愛らしい。そんな様子に、煜瑾も小敏もクスクスと笑った。 「じゃあ、まずはウチへ寄って…。お夕食は、お祖母ちゃんが美味しいもの食べに連れてくれるって」 互いに笑顔で顔を見合わせ、またも4人は狭い軽自動車に乗り込んだ。

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