26 / 30
【2日目】茉莎実の実家にて
「long time no see. How are you? (お久しぶりどすな。元気にしておいでやしたか?)」
「I am glad to meet you again. (またお会いできて嬉しいです)」
茉莎実の実家である薫香店「松鶴堂 」に到着すると、煜瑾は嬉しそうに暖簾をくぐり、店頭で待っていた茉莎実の祖母と英語で挨拶を交わした。
「…茉莎実ちゃんのおばあさまってスゴイよね」
感心する小敏に、茉莎実は微妙な笑顔を浮かべて答えた。
「スゴイっていうか…何事にもキョーレツなのよ…」
言葉少なくそう言って、茉莎実は懐かしそうに手を握り合う、祖母と煜瑾に割り入った。
「おばあちゃんが、会いたいって言ってた人ですよ」
そう言って茉莎実は、文維の手を引いて祖母の前に押し出した。
「nice to meet you.I am really honored to meet you.(初めまして、お会いできて光栄です)」
前回遊びに来てくれた煜瑾と小敏が、イケメンで、可愛らしくて、お行儀が良かったことで、すっかり気に入った茉莎実の祖母は、煜瑾の最愛の恋人が、かなりのハイスペックなイケメンだと聞いて関心を持っていたらしい。
洗練された紳士的な態度で手を差し出す文維を前にして、茉莎実の祖母は満面の笑みを浮かべた。
「What a handsome! It's my favorite young man♪(めっちゃイケメンどすなあ。うちの好みやわ~)」
しっかりと文維の手を握り返す茉莎実の祖母に、煜瑾と小敏と茉莎実は顔を見合わせて苦笑する。文維はいつもと変わらない温厚な笑みを浮かべていた。
「煜瑾ちゃんは、こんなイケメンさんと毎日一緒でよろしおすな」
そう言うと、文維の手を放そうともせず、茉莎実の祖母は煜瑾を振り返り、煜瑾の手も取って、両手をイケメンに委ねて、「鰻の寝床」と称される京都の町家らしい作りの自宅の奥へと案内した。
「ん~、やっぱり茉莎実ちゃんのおばあさまって、キョーレツだね」
左右にタイプの違うイケメンを従え、ホクホクしながら奥へと消えていく茉莎実の祖母に、小敏は不思議そうに呟いた。
「まあね。昔からイケメン好きだから…」
ちょっと困ったように茉莎実は笑ったが、小敏は表情を少し変えて答える。それが真剣みを帯びていて、茉莎実はキョトンとしていた。
「いや、そこじゃなくて…。同性カップルとかに全然偏見ないみたいだけど、あのお年にしては日本人でも珍しくない?」
「あ?そっちね。でも、あの年だからこそ、あんまり気にしないような気がする」
なんだそんな事かとシレっと言うと、茉莎実は祖母たちを追って奥へと急いだ。
「ふ~ん。まだまだ、日本を理解するのは難しいな」
思わず唇を尖らせて小敏は零し、首を傾げながら茉莎実の後から廊下を進んだ。
奥の座敷では、掘りごたつ式の座卓に案内され、椅子に座り慣れた上海人の3人にはリラックスできた。
〈茉莎実に、お2人からのお土産貰いましたえ。おおきに、ありがとうね〉
茉莎実と小敏は必死で同時通訳を務めるが、何となく煜瑾と茉莎実の祖母とは意思疎通ができていた。
「食べる物は、日本の方が美味しいので、私の好きなシルクを刺繍したストールにしました。デザインは、文維のお母さまに選ぶのを手伝っていただいたのです」
素直に煜瑾が言うと、小敏も負けじと付け足す。
〈ボクが買って来た刺繍のバッグは、今、上海で人気のデザイナーの一品物なんですよ〉
茉莎実の祖母は、どちらの意見も笑顔で受け止め、大きく頷いた。
「煜瑾のストールは、これからの季節にクーラーが強い時に使えるし、小敏のバッグはオシャレでお出掛けが楽しみだって、おばあちゃんが言ってたよ」
茉莎実がそう言うと、もう一度茉莎実の祖母は頷く。
〈うちからも、上海にお持ち帰りしてもらうお土産をご用意しましたさかいに、持って帰っておくれやす〉
茉莎実の祖母の気遣いに、煜瑾たちも嬉しそうだった。
ともだちにシェアしよう!