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第3話 ピンク色
「仕方ねぇなあ……こうやってさ、握って擦ってみろよ」
太一が手の形を示すと、ヨシュアは座り込んでおとなしく言うとおりにする。
しかしごしごし擦っているだけで、全然気持ちよくなさそうだ。
「ダメです。出ません」
「もっとさあ、工夫しろよ。気持ちよくなるように」
「気持ちよく……ですか?」
困った顔をして手をとめてしまうヨシュアを見ていると、太一はイライラしてきた。
「わかったよ! わかった! 俺がやってやるよ! 1回だけだぞ」
「本当ですか?」
ヨシュアはぱっと嬉しそうな笑顔を浮かべた。
まあ仕方あるまい……
ヨシュアぐらい綺麗な男のモノなら、触ってもそう気持ち悪いこともない。
太一がヨシュアのモノをつかんで扱き始めると、ヨシュアはものめずらしそうにそれをじっと見ている。
「あのさあ、ヨシュア。じっと見られてるとやりにくいから。目つぶって女のハダカでも思い浮かべてろよ」
「そうですか……」
太一に言われてヨシュアは素直に目を閉じると、ことん、と太一の肩にもたれてきた。
まあそれも仕方ない、雰囲気が大事だからな、と太一は自分に言い聞かせる。
……が。
ヨシュアのつけているコロンの香りがして、すぐそばに美しい顔があると思うと、なぜか太一はドキドキしてしまう。
こいつは男だ。
こんなに立派なモノがついているじゃないか。
何を俺は動揺しているんだ。
さっさと済ませてしまえ!
太一は指先を唾液で濡らして、先端の方を優しく刺激してやった。
すると先から少しずつ透明の液が出て、手触りがなめらかになる。
くちゅくちゅと音が出るぐらいに十分にぬめってから、少しずつ強く扱いてやった。
「あ……変です。何か変ですっ……タイチっ」
ヨシュアがタイチにしがみついて声を上げた。
「変じゃねぇよ。気持ちいいんだろ? 黙ってじっとしてろ」
「はい……あっ……あっ……タイチ……」
ヨシュアは明らかに甘い声を上げながら、腰をむずむずさせている。
そんなヨシュアを見ていると、思わず太一は自分まで興奮しそうになってくる。
「ああっ……タイチっ! 何か、何か出そうですっ」
「出せよ、遠慮せずに。ほら、イケよ!」
「あっ……んっ……ああっ!」
どくどくっとはき出された液体を見て、太一は仰天した。
ピンク色だ。
それも目のさめるような濃いピンク色の精液。
「おいっ! ヨシュア! お前……どうなってんだ。どっか身体でも悪いのか? 病気かよ」
精液に血が混じっているのかと思うような色だ。
ヨシュアはトロンとした顔で、何事かというように太一の顔を見ている。
「何か……変ですか?」
「変だろっ! 精液がピンク色ってあり得ねぇだろっ!」
「ああ……そうか。人間の精液は白いんでしたね」
「人間のって……どういう意味だ、ヨシュア……」
気味が悪くなって、思わず太一は後ずさってしまう。
ヨシュアはしまった、という顔をして、まずいことを言ってしまったと口ごもってしまった。
「ヨシュア……お前、俺に何か隠してることがあるんだろっ!」
気のいい外国人だと思って気を許しすぎたのかもしれない。
病気でもうつされたらとんでもないことだ。
考えたらおかしいことが多すぎる。
毎日すっぽんの生き血を飲んで、食べ物を食べないなんて。
「すみません……タイチ。その通りです。隠していることがあります。でも騙すつもりではありませんでした。タイチに危害を加えるつもりはありません。怖がらないでください」
ヨシュアはがっくりとうなだれて、今にも泣き出しそうな顔をしている。
下半身むき出しでうなだれている顔の綺麗な外国人は、危害を加えるつもりはないらしい。
やれやれ、こうなった以上は仕方ない。
「話せよ……ヨシュア。お前、本当はどこか病気なんだろ?」
「いえ……違うのです。ボクはヴァンパイアなのです」
「ヴァンパイアって……吸血鬼のこと……だよな? まさか……」
そんなことはあり得ない、と太一は否定したくなるが、ヨシュアはすっぽんの生き血だけ飲んでいたではないか。
「マジかよ……イギリスには本当に吸血鬼がいるのか」
「タイチ……聞いて欲しい。ヴァンパイアは鬼ではありません。人間とは少し種族が違うだけ。むやみに人間を襲ったり血を吸ったりもしません。信じて下さい」
太一は大混乱している頭を整理して、冷静になろうと努力する。
そうだ、血を吸おうと思えばいくらでもチャンスはあったはずだ。
だけど、ヨシュアはそんなことをしなかった。
お金を払ってすっぽんの血を飲んでいたではないか。
「本当に人間の血を吸ったりしないのか?」
「むやみには、しません。ボクはまだ一度も吸ったことはない」
「むやみに、というのはどういうことだ」
「伴侶が見つかれば血を吸って仲間にします。人生でただ一度です」
「そういうことだったのか……」
信じられないことだが、ヨシュアの話は嘘ではなさそうだと思う。
「ブラッド家には掟があります。相手の同意がない限り、人間の血を吸うことはありません」
「だけど……仲間を増やさないといけないんじゃないのか?」
「誤解です。ボクたちは迫害されているから、むやみに仲間を増やすと人間に狙われます。それにボクたちは仲間を増やす必要などあまりないのです」
「どういうことだ」
「ヴァンパイアはめったなことでは死なないのです。仲間など増やさなくても一組の夫婦がいれば何百年も子供を作り続けることができます。ブラッド家は純血の種族ですから、人間を襲う必要などないのです」
「何百年って……それじゃ、お前いったい年いくつなんだ?」
「数えるのはやめてしまいましたが、多分120歳ぐらいかと」
120歳って……
俺のひいじいちゃんぐらいの年か。
太一はあまりの驚きに言葉をなくしてしまった。
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