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第4話 ヨシュアの事情

「それじゃあ、お前はなんで結婚相手なんか探しに来たんだよ」 「恋をしてみたかったんです……人間の恋人同士は幸せそうで、うらやましかった。ボクの婚約者は500歳ぐらいの人で恋などできそうになかった」 「500歳かあ。そりゃあまあ、ちっと気の毒だなあ」 「タイチ……もうボクは隠していることはありません。本当にタイチに迷惑かけるつもりじゃなかった」  ヨシュアはブルーグレイの瞳から、ぽとり、と涙を落とした。 「まあ、ヨシュア。お前の話は分かった。お前が俺の血を吸おうとしてるんじゃなければ、それでいい。俺は、お前を信じてやる」 「本当ですか……?」  ヨシュアが目に涙をいっぱいためて太一を見つめると、太一はなぜだか胸が苦しくなってくる。 「ああ……だけどアレだな。お前の結婚相手を見つけるっていうのは、かなり難しそうだなあ」 「そうなのです。好きな人ができたとしても、仲間にならないと一緒にはいられません。その人は年老いていくけれど、ボクは年をとらない」 「なるほど。俺がジジイになって死ぬ時も、お前は今のままなのか」 「そうです。だからボクは人間の友達は作らなかった。人間は弱い。すぐに死んでしまうから、友達になっても悲しいだけ」  ヨシュアの話が本当なら、不老不死というのは悲しいものだな、と太一は思う。  もし自分がヨシュアの立場で、友達が皆死んでいってもたった一人で生き続けなければならないとしたら、それは自分が死ぬより辛いかもしれない。 「それでもよ……あと俺の寿命が何十年かは知らないが、俺は友達でいてやれるぜ。お前は辛いかもしれないけど」 「タイチ……タイチはいい人です。ありがとう」  ヨシュアがあまりに泣きじゃくるので、太一は話題を変えた。 「ところで、お前、すっぽんの生き血を飲む前は、どうやって食事してたんだ」 「それは、ブラッドリーフという薬草で作ったワインを飲むのです。これです」  ヨシュアは冷蔵庫からビンを取り出してきて、太一に見せた。  底の方に少しだけ赤い液体が残っている。 「イギリスを出る時に持ってきた分はもうこれだけしか残っていません。ボクの故郷にはブラッドリーフがたくさんあって、皆それを飲んで生活している」 「そうか。じゃあ、すっぽんの生き血がなかったらお前は飢え死にするところだったのか」 「そうです。タイチは命の恩人です」  ヨシュアはやっと泣き笑いのような笑顔を浮かべた。  120歳だかなんだかしらないが、子供のように可愛い笑顔だと太一は思う。 「しっかしなあ……吸血鬼ってもっと恐ろしいもんかと思ってたけど、ヨシュアみたいにひ弱なやつもいるんだな」 「ブラッド家の女ヴァンパイアはちょっと恐ろしいです……でも男は皆優しい」 「そうか、それで婚約者から逃げ出してきたってわけか」 「面目ないです……」  しゅん、とうなだれるヨシュアを見ると、太一は思わず笑い声をあげてしまった。 「なあ、吸血鬼の牙ってほんとにあるのか? 血を吸うやつ」 「ありますよ」  ヨシュアはにっこり笑うと、八重歯のような小さな歯を見せてくれた。  確かに人間より余分にあるその歯は、小さいけれど鋭くとがっている。  やっぱり本当に吸血鬼なんだな……と太一はため息をついた。 「ヨシュア、俺、協力してやるよ。お前が栄養失調にならないように、すっぽんの血、毎日集めといてやる」 「ありがとう。でも、スッポンのイキチはちょっと困ることもあります」 「だから! それは今日、治し方教えてやっただろ!」  そうか……ヨシュアは血を吸って仲間を増やすのだから、セックスをする必要などないのだ、と太一は改めて納得した。    ヨシュアはそれからも毎日太一の店に通ってきた。  当然のことながら、誰もヨシュアが吸血鬼だと気付く者はいない。  ちょっと変わった客だが、アレルギーがひどいらしい、ということで皆納得していた。  何よりヨシュアは性格が良いので、すぐに店の常連客にもなじんでしまった。  太一はこっそりとすっぽんの生き血をためておいて、小瓶に入れてヨシュアに渡してやっていた。  1日1回では足りないだろうと思ったからだ。  ヨシュアは出会った頃に比べて、どんどん顔色が良くなっていったし、店で楽しそうにしているのを見ると太一は嬉しかった。 「なあ、ヨシュア、お前彼女探してるんだろう?紹介してやろうか」  ある日隆二が突然そんなことを言い出したので、思わずヨシュアと太一は顔を見合わせた。 「合コンの話があるんだよ。俺も太一も彼女いねぇしさ。ヨシュアも仲間に入れてやるよ。女どもが喜びそうだしな」 「合コンですか……」 「おう、好みの女がいたら頑張ってくどけよ。なるべくお前に譲ってやるからよ」  確かにヨシュアは結婚相手を探しているのだが……  秘密を知っている太一は気が気じゃない。 「その日は店は貸し切りにするからよ」  隆二の呼びかけで、店の常連客6人と女性が6人集まる、ということになった。  ヨシュアは合コンというものがどういうものか分からないらしく、不安そうな顔をしている。

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