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第5話 合コン
「タイチ……合コンというのはお見合いパーティーのようなものですか?」
「いや、そんな堅苦しいもんじゃねぇな。気に入った相手がいたらまずはお友達になりましょう、というやつだ」
「お友達ですか……それなら」
ヨシュアは太一の説明を聞いてほっとしたような顔になった。
「いや、相手がOKだと言えば、お持ち帰りだってOKだぜ」
隆二が横から余計なことを言うのを、太一が止める。
「いや、焦るなよ、ヨシュア。まずは友達になってからじっくり選べ」
「そうですね。ボクもその方がいいと思います」
「なんだよ、太一。いつもイケイケのお前が何言ってんだ」
「うるさい! 俺とヨシュアは違うんだよ! ヨシュアの相手はそこいらの女誰でもいいってわけじゃねぇんだ!」
「へえ……お前、ヨシュアのことになるとずい分ムキになるんだな」
「そ、そりゃあ……ヨシュアは由緒ある家の御曹司だからな」
正直、太一はヨシュアにいい結婚相手が見つかって欲しいと思う反面、結婚相手が見つかったらヨシュアはいなくなってしまうのでは、と寂しい気持ちになる。
せっかくなじんできたのに、もう少し友達でいたい、と思ってしまう。
ヨシュアは素直で、純粋で、可愛い。
太一が助けて拾ってきたのだ。
簡単には女になんか渡したくないような気がする。
だいたい合コンになんか来る女は、顔か金が目当てでロクな女じゃない。
そんな女どもにヨシュアはもったいないぞ、と顔をしかめていたら、ヨシュアが心配そうな顔をして太一をのぞきこむ。
「タイチ、どうかしましたか」
「ああ……いや、なんでもない。まあ、ヨシュア、あんまり期待するなよ」
「はい。焦ったりしません。だって100年ぐらい見つからなかったのに、そんなに簡単に見つかるはずありませんから」
ヨシュアは声をひそめてタイチにだけ聞こえるように囁いた。
そうだよな、とタイチもほっとする。そんなに簡単に見つかるはずはない。
そんなこんなで、合コンの日はやってきた。
看護師の集まりだ、という化粧の濃い女たちが店にやってくる。
当然、彼女らの標的はヨシュアに集中した。
「モデルみたいな顔!」
「すごい、イギリスにお屋敷があるんだ」
ヨシュアの話題ばかりになるので、他の男たちは皆不機嫌だ。
そして、太一も不機嫌だった。
それみろ、顔か金が目当てじゃないか、と思ってしまう。
中でも一番積極的な女はヨシュアの側にべったりと寄り添って離れなかった。
内気なヨシュアは困った顔をしているが、おかまいなしにベタベタと触れたりしている。
そして、合コンが終わってついにその女は他の女をだし抜いて、ヨシュアと一緒に帰る約束をしてしまった。
太一はヨシュアに、困ったことになったら必ず電話しろ、と携帯番号を教えて見送った。
さすがに止めるわけにもいかない。
隆二や他の客は女が皆ヨシュアばかりを狙っていたのが面白くなくて、店で飲み直している。
太一もその中に加わって飲み直し始めた。
あの女は嫌な女だ。
あんな女にヨシュアがひっかからなければいいけれど……
ヨシュアから太一の携帯に連絡があったのは、0時前のことだった。
とっくに帰ったと思っていたら、まだ女と一緒に駅前にいると言う。
2軒目で飲んでいたのだが、終電がなくなったので女がホテルに泊まろうと言っている、と言うのだ。
「ヨシュア、やめとけ! 今日のところはお友達になれば十分だ。タクシーを止めて女を乗せろ」
思わず大声を出してしまったので、店の客や隆二が注目している。
「よせよせ、太一。人の恋路を邪魔するもんじゃねぇぞ」
「うるせぇ! お前ら黙ってろ!」
太一はヨシュアに今から迎えに行く、と告げて店を飛び出した。
駅まで走っていくと、そこにポツンとヨシュアが立っていた。
太一の顔を見ると嬉しそうな顔になったが、なんとなく元気がなさそうだ。
「大変でした。なかなかタクシーに乗ってくれませんでした」
「酔っぱらってたんだろう」
「そうみたいです。ねえ、タイチ。日本の女の人は会ったその日に結婚を決めることがあるのですか」
「結婚? 結婚してくれと言われたのか?」
「そうではありませんが……抱いて欲しいと言われました。それってセックスのことでしょう?」
「ヨシュア、そんな女はロクな女じゃない。誰とでもセックスする女だ」
「誰とでも? だってセックスすれば子供ができるのでしょう?」
「できねぇ方法があるんだよ。子供を作らずにセックスだけ楽しむ女もいるんだ」
「そうなんですか……結婚という意味ではなかったのか」
ヨシュアはがっくりと肩を落としている。
「なあ、ヨシュア。そうがっかりするなよ。もっといい女、見つけてやるからさ」
「いえ、いいんです。ボクはセックスが得意ではありません。楽しませることなんてできないですから」
いいやつなのになあ……と太一はため息をついて、ヨシュアの横顔を眺める。
吸血鬼、というのは問題だが、ヨシュアならきっと彼女を大切にするだろう。
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