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第11話 仲間に

 翌朝、太一は隆二の車を借りて浜松へと向かった。  浜松のすっぽん料理屋から、仕入れ先を紹介してもらったのだ。  イキのよいすっぽんがたくさん買えた。  これで少なくとも二週間分はある。  その間はヨシュアも日本にいられる。  その間に太一はヨシュアを説得するつもりだった。  待ってろよ……ヨシュア。  お前の好物持って帰るからな。  休憩もせずに往復して、やっと店の近くまで帰り着いた時。  太一の運転する車の前に、子供が飛び出してきた。 「危ねぇっ!」  咄嗟にハンドルを切った対向車線側に、運悪くスピードを出したトラックが突っ込んできた。  一瞬のできごとだった。  後続の車も巻き込んで大事故となり、太一の運転していた車は大破した。  ああ……すっぽんが逃げちまう……  薄れゆく意識の中で、はい出していくすっぽんを太一は捕まえようとして手をのばした。  腹からおびただしい血があふれ出す。  ああ……俺の血が流れ出ていく……  もったいねぇ……  ヨシュアがここにいれば、全部やるのに……  連絡を受けて隆二とヨシュアが病院に駆けつけた時に、太一は手術中だった。  出血多量。内蔵破裂。  折れた骨が肺につきささっていたということだった。  危篤状態で太一は集中治療室に入れられた。 「太一の大馬鹿野郎……くそっなんとかなんねぇのかっ!」  隆二は病院の廊下でわめきちらした。 「なあ、ヨシュア……お前、なんとかできねぇのか? お前、ケガを治せるんだろ? 太一を助けてやってくれよ……」 「隆二さん、どうしてそれを……だけど、ボクが治せるのはほんの小さな傷だけなんです。ボクだって太一を助けたい。だけど重傷の人を助けるのは無理なんです……」  隆二にとってヨシュアは最後の頼みの綱だった。 「じゃあ、もうどうしようもねぇってことか……」 「せめて意識さえ戻れば……でも……」  集中治療室は面会謝絶だ。  ヨシュアは中に入ることができない。 「隆二さん。ボクは集中治療室にもぐりこみます。その間、見張っていてくれませんか」 「……何か、方法でも思いついたのか?」 「うまくいくとは限りません。だけどこのまま何もしないよりはいい」 「わかった。ヨシュア、お前を信じる。太一を頼む」  目の前で確かに見たヨシュアの治癒能力。  今はヨシュアを信じるしかない、と隆二は思った。  病室にもぐりこんだヨシュアは近くにあった医療用のハサミで、思い切り自分の腕を切りつけた。  治癒力の高いヴァンパイアの血なら、もしかして……    すがるような思いで、自分の血を太一の唇から流し込む。  突然咳き込むようにして、太一は意識を取り戻した。 「ヨシュ……ア……」 「タイチ……ボクの声が聞こえますか?」 「ああ……でも……目がよく見えねぇ……俺は生きてるのか」 「大丈夫、生きてます。でも、とても危ない状態です」  ヨシュアは本当のことを太一に伝える。 「そうか……危ない……のか」 「タイチ、ボクがあなたを助ける方法はひとつしかありません。でも、あなたの同意が要るのです。返事をしてください」 「わかって……る……連れていけよ……俺を」 「タイチ……ヴァンパイアになるには、ある程度の体力が必要なのです。ボクはタイチを殺してしまうかもしれない」 「構わねぇ……死に神よりお前に殺される方が……よっぽどマシ……」  太一は口の端だけで、ほんの少し笑った。 「では、ボクはタイチを仲間にします。約束、破ってしまうけど……いいんですね?」 「ごめん……な……今まで……決心してやれなくて……こんなに……なるまで」  ヨシュアはそっと太一の唇に口づけた。  人間である太一へ最後の挨拶。  それから太一の手を握った。 「ヨシュア・ブラッドは、タイチ・ハラダに生涯忠誠を捧げます」 「……ああ……俺も……」 「タイチ、ごめんね、ちょっと痛いかもしれないけど」 「早く……やれよ……どうせ全身痛いんだ……」  ヨシュアは震えながら、タイチの首筋に口づける。  迷っている時間はないんだ。  タイチが生きている間に仲間にするんだ!  「タイチ……タイチ……」  ヨシュアの呼び声で太一は目覚めた。  起きあがってみると、どこにも痛みはなく、身体は軽かった。 「良かった……タイチ……」  ヨシュアは涙でぐしょぐしょになりながら、抱きついた。 「ヨシュア、俺……」 「話をしている時間はありません。立てますか?」 「ああ、大丈夫だ」  体中につながっていた線を引き抜いて、太一は歩いてみる。 「逃げましょう。タイチはもう人間ではないのです」 「わかった。だけどどうやって」 「外にいる隆二さんがごまかしてくれます。この上着をはおって」  ヨシュアは用心深く集中治療室を出ると、隆二に声をかけた。 「ヨシュアっ! 太一は……太一はどうなった?」  駆け寄ってきた隆二は太一が歩いて出てきたのを見て、幽霊でも見たように固まった。 「ボクらはここから逃げます。後をごまかしていただけませんか」 「ああ、まかせとけ。ヨシュア、太一を頼む」  太一さえ無事ならそれでいい。  隆二は後を引き受けた。

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