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第15話 親族

 屋敷へはいるとそこは、赤い絨毯が敷き詰められた広いホールで、スーツ姿の男性が何人か立ち話をしていた。 「ヨシュア! ヨシュアじゃないか! お前しばらく見ないと思ったら、どこへ行ってたんだ」 「うん、念願の日本に行ってたんだ」 「それでなかなか帰ってこなかったのか。おおかたアニメグッズでも買いあさってたんだろう?」  ちなみに、この会話は英語なので、太一にはちんぷんかんぷんだ。  ヨシュアが太一を紹介すると、その場にいた人たちは皆全員日本語で話をしてくれた。  この屋敷に日本人が来たことはないらしく、面白がっているようだ。 「へえ……ヨシュアはソッチの人だったのか。どうりでメリーとの婚約をすっぽかすはずだ」 「うん。メリーには申し訳なかったと思うけど」  好奇心の目で見られてはいるものの、誰もゲイのカップルであることをとがめる様子はない。  少し、太一の緊張は和らいだ。  屋敷の中にはたくさんの人がいて、皆久しぶりに帰ったヨシュアに声をかけてくるのだが、太一にも必ず日本語で話しかけてくれて好意的だ。 「なあ、ヨシュア。さっきの人たちは親戚なんだよな?」 「うん、多分叔父さんとか従兄弟とかだと思うんだけど……ボクもよくわかんない。家系図でも見ないと覚えられないんだ」 「そうだろうな……名札でも付けててくれるといいんだけどよ」  出会う人は皆2、30代に見える。  それが叔父さんだったり従兄弟だったり、下手をすれば祖父だったりする訳だ。  ややこしいことこの上ない。  しかも太一は横文字の名前を覚えるのが苦手だ。顔も外国人は似たり寄ったりに見える。  太一は会った人を覚えるのは早々に諦めてしまった。  ま、何百年かたてば自然と覚えるだろう。  さんざん歩いてヨシュアは自分の部屋へ連れていってくれた。  屋敷の中はまるで迷路のようだ。  一人だったら絶対迷子になる。 「さあ、どうぞ。ここがボクの部屋だよ」  ここがヨシュアの生まれ育った場所か。  屋敷の外見とは違って、思ったより近代的な設備だ。  部屋といってもそれ自体がマンションのように、シャワールームやリビングや寝室があるようだ。  日本にいた時のヨシュアのマンションとなんとなく雰囲気が似ている。  これなら落ち着けるかもしれないな、と太一は思った。 「ゆっくりしたいところだけど、まずはパパに挨拶に行こう。待ってると思うから」 「あ、ああ……緊張するな」  ヨシュアに促されて部屋を出ようとしたその時、ドアが突然開いた。    目の前にヨシュアとそっくり同じ顔をした男が立っている……  太一は唖然とした。 「ジョゼっ!」  ヨシュアは嬉しそうにその男に飛びついて抱き合っている。 「ヨシュア……双子なのか?」 「ううん、兄なんだ。10歳違いの」  ヨシュアはジョゼを部屋の中に招き入れた。 「ジョゼ、この人がタイチ。ボクのパートナーになってくれた人」 「タイチ? なんかどっかにそんな名前の島があったな」 「もう、ジョゼったら。それはタ・ヒ・チ!」 「そうか。まあでも島から来たことには変わりないだろ」  顔はそっくりだが、皮肉っぽいしゃべり方はヨシュアとは全然似ていない。  太一はジョゼの視線にわずかな敵意を感じた。 「ジョセフ・ブラッド。ヨシュアの兄だ。ジョゼと呼んでくれ」 「よろしく、ジョゼ。タイチだ。ま、タヒチでもいいけどな」  太一がやり返したのでジョゼは少しうろたえてふん、と目をそらす。  わかりやすいやつだ……と太一は笑いをこらえた。  こういう反抗的なやつの扱いに太一は慣れている。  太一の方から握手の手を差し出すと、仕方ないというようにジョゼも握り返した。  一応友好関係を結ぶつもりはあるようだ。 「お前がいなくなってから、大変だったんだぞ!ヨシュア」  いきなりジョゼはヨシュアに文句をぶつけ始める。  どうやらヨシュアが逃げ出したので、メリーという婚約者をジョゼが押しつけられたらしい。 「ふーん、それでメリーはどうしたの?」  ヨシュアはもう自分には関係ないというように、暢気に笑顔を浮かべている。 「メリーはヨシュアじゃないと嫌なんだってさ。オレは助かったけど」 「へえ……同じ顔してるんだから、どっちでもよさそうなもんだけどな」  太一が横から口をはさむと、ヨシュアはムキになって言い返す。 「ヨシュアは大人しいから言いなりになると思ったんだろ! メリーってやつは気が強いからな」 「なるほど。ジョゼは女の言いなりになんかならない、ってことか」 「当たり前だ。あんな年増、いらねぇよ!」  ヨシュアと同じ顔をしているくせに、気の強そうなジョゼのことを太一は気に入った。  こういう男は仲良くなれば、案外ストレートに話ができる。 「タイチ、ジョゼは口は悪いけどいいやつだよ。兄弟だけど、ボクの一番の友達だ」  ヨシュアと一番仲が良かったというジョゼという男。  たぶん、こいつがずっとヨシュアのことを守ってきたのだろうと、太一はなんとなく感じていた。 「ねえ、ジョゼ。ボクたちまだパパに挨拶してないんだ。後でまたゆっくり話そうよ」 「ああ、もう当分こっちにいるんだろ?」 「うん。もう逃げ出す理由もないしね」 「じゃあ、あとでたっぷり日本であった話聞かせろよ!」  ジョゼはちら、と太一に目だけで挨拶をすると、出ていった。    

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