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第18話 性教育
「ヨシュア、もう終わった?」
「うわっジョゼっ。びっくりした……」
抱き合っていたふたりはオレを見るとあわてて離れた。
なんだよ、別に離れることないのに。
オレが邪魔したみたいじゃんか。
「ジョゼ、いつからそこにいたの……?」
「ん? ヨシュアがタイチのモノを食ってた時ぐらい」
「のぞいてたのかよ……」
太一は頭を抱えてため息をついた。
「だって、何してんのかわからなかったから」
悪びれもせずジョゼは寝室に入ってきて、裸のふたりの前に座った。
「なあ、さっきの、セックスだろ? あれが人間のオーソドックスなスタイルなのか?」
「うーん……オーソドックスといえるのかどうかわからないけど、男同士の場合はこうやってやるんだよね?」
ヨシュアは真面目に太一に問いかける。
ああ、まあな、と太一は仕方がないので相槌をうつ。
まったく、ヴァンパイアってやつはプライバシーというものを知らないのか!
ヨシュアもヨシュアだ。
見られていたことをあまり気にしていないようだ。
「ヨシュア、あれ、そんなに気持ちいいのか?」
ジョゼはどうやら悪気はなく、本気で質問しているようだ。
「そりゃあまあ……気持ちいいよ。ボクも最初は驚いたけど」
「イクってなんだ?」
「ああ、それは日本語で出るっていう意味なんだ」
出る=go out か。 行く=go to じゃないんだ。
ジョゼはますますわけがわからなくなる。
「なあ、お前らヴァンパイアはセックスしないのか? どうやって子供作るんだよ」
ついに呆れて太一は会話に加わる。
太一の質問にジョゼが答える。
「子供を作る時には特別濃いブラッドリーフの原液を飲むんだ。そうすると、しばらくして勃起する。それを女に突っ込むと精液が出る。それだけだ」
顔色も変えずにジョゼが説明するので、太一はため息をついた。
「お前らのセックスって、ずい分不毛だな……楽しいか? それ」
「セックスは別に楽しいもんじゃない」
「俺たちはさ。男同士だから別に子供作ってるわけじゃねぇんだから、楽しくないとつまんないんだよ」
「なるほど、それは理解できる」
ジョゼは太一の言葉に案外素直に納得した。
楽しくもないのに尻の穴にあんなモノ突っ込まれて、我慢できるはずがない。
きっとこのふたりはアレが楽しいんだろう。
「ヨシュアは楽しいか?」
「うん……楽しいっていうか……気持ちいい。これ以上気持ちいいことってないと思う」
ヨシュアは答えながら顔を赤らめた。
「そっか。いいな。オレはやったことない」
すねたようにジョゼは俯いた。
「あのな、ジョゼ。セックスは好きなやつとやらないと気持ちよくないぜ」
諭すように太一は言った。
まったく、なんで俺がこいつらの性教育担当なんだ。
「好きなやつなんて100年以上いない。オレが好きなのはヨシュアだけだ」
「お前がヨシュアを好きなのは意味が違う。恋人として好きっていうことだ」
「恋人っていうのは、どうやって見つけるんだ?」
「さあな。それは人それぞれだ。ヨシュアに聞いてみたら」
太一は冷蔵庫にワインを取りに行って、3人分のグラスを用意した。
ジョゼとヨシュアはつもる話でもあるだろう。
「さ、飲もうぜ。時間はいっぱいあるんだし」
太一はふたりの邪魔をしないように適当に話に加わったり、聞き役に回ったりしていた。
ジョゼとヨシュアは熱心にセックスの話をして、盛り上がっている。
まるで高校生のようだ。
「……ほんとだよ! 精液ってすごく甘くて血の味に似ているんだ。ね? タイチ」
「ああ……まあな」
「それからさっ、人間の精液って白いんだ、ボク見たんだよ! それからさっ……」
ヨシュアのやつ、しゃべりすぎだっ!
それから、ジョゼは真剣に聞きすぎだっ!
それから毎晩のようにジョゼは太一たちのところにやってきて、3人でワインを飲むようになった。
どうせ何もすることがなくてヒマなのだ。
ヴァンパイアというやつは時間が無限にあるから、結局のところヒマなんだろう。
だから、皆やったことのないことに興味を示す。
ブラッド家の屋敷では数日のうちに『精液は甘いらしい』という噂が飛び交うようになった。
もちろん、そんな噂の出所は太一とヨシュアしかない、と皆思っているだろう。
プライバシーなど欠片もない屋敷だ。
そしてジョゼ以外のヴァンパイアも、太一とヨシュアの部屋に遊びに来たがるようになった。
日本語の練習にもなるというので、入れ替わりやって来る。
毎晩のように宴会だ。
ヴァンパイアは食事をする楽しみというのがないから、ひたすらワインを飲んで話をする。
酒は好きなようだ。
「ごめんね、タイチ。毎晩で疲れるでしょう?」
「いや、いいよ。俺は商売してたから話し相手は慣れてる。それにどうせヒマなんだ。嫌われるよりいいさ」
「でも、ここに帰ってから全然落ち着いてふたりきりになれないよねえ」
「まあ、そのうち飽きるだろ」
「ボクはもっとタイチとふたりきりでのんびりしたいのになあ……」
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