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第20話 横恋慕

「なあ、ヨシュア。俺はお前のものだ。だけど、お前のものはなんでもジョゼのもの、ってわけじゃない」 「そう……だよね」 「嫌なら断っていいんだ。俺はもう二度とジョゼにあんなことはしない」 「ボクはジョゼの頼みは断れない……」 「じゃあ、もしジョゼが次は俺とセックスしたい、と言ったらどうするんだ」 「い、嫌だっ! タイチが他の人とセックスをするのは嫌……しないで、お願い」 「だったら、断れるだろ?」 「断れるかなあ……」  ヨシュアはきっと今まで、誰かに嫉妬したことなど一度もなかったんだろう。  なんて可愛いヨシュアの嫉妬。  太一はヨシュアの唇にキスをして、顔をのぞきこんだ。 「『タイチはボクだけのものだ』って言ってみろよ」  ヨシュアは不思議そうな顔をして、小さな声でその言葉を繰り返す。 「タイチは、ボクだけのものだ……」 「そう、なんべんも言ってみろ」 「タイチはボクだけのものだ……タイチはボクだけのものだ……」  その言葉を繰り返しながら、ヨシュアは後悔していた。  そうだ。  タイチはボクだけのものだ。  他の誰にも、たとえジョゼにも渡したくないんだ! 「いいか。今度ジョゼがあんなこと言い出したら、ちゃんとそう言うんだぞ」 「わかった。タイチ、ごめんなさい」 「その代わり、誰かがヨシュアを貸せって言ってきたら、俺がぶん殴って断ってやるからな!」 「あの……普通に断ってください。ぶん殴らないで」 「いや、俺は殴るぞ! ヨシュアは俺だけのものだ!」    ヨシュアは嬉しくなってやっと笑った。 「タイチ、ボクだけとセックスしてください」 「よし。さっそく今からしよう!」 「あん……ここでするのですか? あっタイチ……」 「俺がこんなことするのはヨシュアだけだ」  太一はヨシュアのモノを取り出して、しゃぶり始めた。 「ああっタイチっ……あっ……ん……」  ジョゼはタイチに手で出してもらったのがすごく気持ちよかったので、上機嫌だった。  上機嫌でぼーっとしていて、ヨシュアの部屋に上着を忘れてしまった。  引き返してヨシュアの部屋をのぞくと、さっき自分がタイチにしてもらっていたソファーにヨシュアがいて……  タイチはヨシュアの前にひざまづいて、ヨシュアのモノを楽しそうに舐めていた。 「あっあんっ……タイチっ……気持ちいいっ。もっと舐めてっ」    ちぇっ……またヤってんのか。あいつら。  でも、いいなあ……ヨシュアのやつ。  オレもあんな風にしてほしかったな……  ジョゼの上機嫌はあっという間にかき消えてしまった。  見なきゃよかった。  ヨシュアのあんなに幸せそうな顔。  オレって最低だ。  ヨシュアの幸せそうな顔が辛いなんて。  タイチの手……優しかったな……    ジョゼはだんだんと、ヨシュアの部屋に来なくなった。  そのくせ、たまに3人が一緒になると、太一の顔をぼーっと見ていることがある。  なんか変だ、とヨシュアは思っていた。  悪い予感、というやつだ。 「タイチ、やっぱりジョゼはタイチのことが好きなのかな……」 「そんなことはねぇだろ。第一、最近ここに来るのも飽きてきたみたいじゃないか」 「飽きた、というのではないような気がします。なんかボクに遠慮しているような」 「遠慮してもらうぐらいで調度いいだろ? 俺たち、新婚なんだし」 「でも……」  ジョゼとの間に目に見えない壁ができてしまったような気がする。  理由はわからないけど……  あの日以来だ。  ジョゼはあの日機嫌よく帰って行ったはずなのに。  ボクがジョゼのことを一瞬でも嫌いだなんて思ったから、ジョゼに伝わってしまったんだろうか。  タイチだけは譲れないけど、ボクはジョゼと仲良くしていたいのに。    またある日、ヨシュアがアレックスパパと出かけている時のこと。  しばらく顔を見せなかったジョゼが太一のところへやってきた。 「おう、ジョゼ。しばらく顔見なかったな。忙しかったのか?」 「あ、ああ……まあ、ちょっとな」    ジョゼは顔色が悪い。  少し俯き加減で落ち着きなく視線をさまよわせている。 「ヨシュアなら留守だぜ。いる時に来てやれよ」  太一はヨシュアがジョゼのことで心を痛めているのを知っていた。  ジョゼは何か理由があって、わざとヨシュアのいない時に訪ねて来たんだろうということもわかっていた。 「なあタイチ。オレ、タイチに頼みがあるんだ」 「ジョゼ。そういうことはヨシュアがいる時にしてくれ。それとも、ヨシュアの前では言えないようなことなのか?」 「ヨシュアには悪いと思う。でも……一度だけ。一度だけでいいんだ。オレ、タイチにどうしてもして欲しいことがあって」 「ジョゼ、帰れ。聞かなかったことにしてやる。ヨシュアに悪いとわかっているなら、それ以上言うな」  タイチを怒らせた……  ああ、もう終わりだ。  これで良かったんだ。  タイチはいいやつだから、やっぱりヨシュアを裏切ったりしない。  悲しいのに心のすみで安堵する。  少なくともヨシュアは幸せだ。

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