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第21話 旅行に行きたい

「子供の頃……オレとヨシュアはそっくりで、仲が良くていつも一緒にいた」  ジョゼは背中を向けている太一に、独り言のように話した。 「だけど、気が付いたらオレが望むものはいつも、ヨシュアが手にいれてしまう。ヨシュアはいい子だねって、みんなに好かれて……オレはいくらヨシュアの真似をしてもダメだった。みんなヨシュアを好きになるんだ。顔だけは似てると言われるのに」 「ジョゼ。お前とヨシュアは違う。ヨシュアの真似なんかするのはよせ」  タイチはやっと振り返って、オレを見てくれた。 「お前とヨシュアは似てない。俺はお前のヨシュアと似てないところが好きだぜ」 「似てないところ……?」 「気が強くて、ストレートで、物怖じせずに思ったことをはっきり言う。俺は友達にするならお前のようなやつが一番好きだ」 「変わってるな、タイチは。みんなオレのこと気がきかなくて口が悪いって言うのに」 「俺も日本では皆からそう言われてたぜ。俺とジョゼは似てるんだ」 「俺とタイチが似てる……?」 「ああ。だからヨシュアみたいな危なっかしいやつは放っておけないんだ。お前もそうだろ?」  ジョゼは嬉しかった。  ぐっと涙をこらえた。  タイチがそんな風に思ってくれてたなんて、知らなかった。  友達にするなら一番好きだと、言ってくれた。  オレなんかヨシュアのオマケぐらいだろうと思っていたのに。 「タイチ。ヨシュアに教えてもらったんだけど人間が好きな人にする挨拶……アレは恋人にしかしてはいけないのか?」 「する場所によるけどな」 「じゃあ、どこになら友達でもしていいんだ?」  太一は小さくため息をついてジョゼに歩み寄ると、いつもヨシュアにするように頭にぽん、と手をおいた。 「お前の頼みってのはそれか」 「そうだ。もしタイチが頼みを聞いてくれたら、それでヨシュアと仲直りしようと思っていた。一方的に避けてたのはオレだけど」  太一はてっきりジョゼがセックスしてくれとでも言ってくるのかと思ったのだが、誤解だったようだ。  このヴァンパイア兄弟は、100年以上生きていて、なぜ恋愛に関してだけこんなに子供なんだろう。 「ヨシュアに内緒だぞ」  太一はジョゼの頬に一瞬だけキスをしてやった。   「唇にはしてやれないんだ。ごめんな」 「ううん、ありがとう、タイチ。オレ、嬉しい。オレも人間の恋人探す」  ジョゼは赤くなってお礼を言うと、くるりと太一に背を向けて出ていった。  まったく、ジョゼも可愛いところがある……  ジョゼは言葉どおり、何事もなかったようにヨシュアと仲直りをした。  ヨシュアは最初不思議がっていたが、ジョゼは機嫌の浮き沈みのあるやつだから、とあまり気にするのはやめたようだ。  なにより、ジョゼと話をできなかった数日間がヨシュアには相当辛かったようで、今はまた毎日のように一緒に酒を飲んでいる。  そんなヨシュアの大らかなところが、ジョゼと合うんだろう。 「ねえ、タイチ。退屈だしさ。どっか旅行でも行かない? 新婚旅行」 「旅行かあ……そうだなあ。もし行くんならハワイにでも行ってのんびりしてぇなあ」 「ハワイはダメだよ……ボクたちは肌が弱いんだもん。日差しの強いところは苦手」 「ボクたちって……おい、ヨシュア。新婚旅行3人で行くつもりなのかっ?」 「だってジョゼも一緒の方が楽しいじゃない」 「オレは行かねぇぞ! 新婚旅行ぐらいふたりで行けっ!」  旅行か。  国内旅行にもほとんど行ったことがなかった俺が、海外旅行ねえ……  旅行行くんだったら、日本に帰って温泉にでもつかりてぇなあ、と太一は思う。  周囲が騒がしくてしばらくは忘れていたが、ホームシックってやつだな。 「なあ、ヨシュア。旅行行くんだったら日本にしねぇか?」 「なに……タイチ、日本に帰りたくなったの?」 「いや、日本にもさ。旅行してみたかった場所がいろいろあるんだよ。それなら俺がヨシュアを連れていってやれるしさ。温泉とか入ろうぜ!」 「オンセンって?」 「プールみたいにデカい風呂がいろいろあって、みんなではいるんだ。気持ちいいぞ」 「みんなではいれるの?」 「ああ、裸のつき合いってやつだ」 「じゃあさ! やっぱりジョゼも一緒に行こうよ! 日本、行ったことないでしょ?」 「え……オレはいいよ……」 「ヨシュア、ジョゼにだって都合があるんだから、ムリ言うな」 「だって日本にはスッポンのイキチもあるし、それに……ボク、隆二さんにジョゼを会わせたいんだ」  隆二……か。元気でやってるのかな。  一人で店はちゃんとやれてるんだろうか。  会いてぇなあ、俺も。 「誰だよ、リュウジって」 「ん、タイチのお兄さん。ボクが日本ですごく世話になった人で、タイチの次に好きな人なんだ。タイチとよく似てて」  タイチと似ている兄貴がいるのか。  それはオレも見てみたいかも、とジョゼは思う。  思案しているジョゼに、ヨシュアがこっそり囁く。 「隆二さんって優しいし、恋人いないみたいだよ」 「オ、オレは別にそんな……」 「ジョゼも恋人探すんでしょ? 一緒に行こうよ」 「……行ってみようかな」 「やった! ねぇ、タイチ! ジョゼも行くって!」 「よし、そんじゃ、3人で日本旅行行くかっ!」  太一にはヨシュアの策略など見えていたけれど、あえて気付かないふりをしておいた。  隆二にジョゼを会わせてみるのは、案外いいかもしれない。    隆二はジョゼみたいな気の強い年下が好きなはずだ。  きっと猫みたいに可愛がるだろう。  俺を可愛がってくれたみたいに。  二度と日本には帰れないかと決意してヨシュアの故郷に来た太一だったが、ものの数ヶ月で日本に帰ることが決まった。  金とヒマさえあれば、日本とイギリスは近い。 【弱気なヴァンパイア 第2章 ヨシュアの故郷 ~End~】

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