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第25話 サプライズその2

「ところで、ジョゼは日本に何をしにきたんだ」 「何って……」  まさか恋人を探しに来た、とは言えずにジョゼは困ってしまった。 「ヨシュアは恋人を探しに来たんだ、と言ってたなあ。まさか太一がつかまるとは思ってなかったが」 「オレは……リュウジに会いにきた」 「俺に会いに? そいつはまたどうしてだ」 「ヨシュアがリュウジはタイチと似ていると言うから、見にきた」 「たったそれだけのためにイギリスから来たってのか? お前も物好きなやつだなあ」  からかいながらも、隆二は嬉しそうだ。 「ヨシュアがなんでそんなことを言ったかしらねぇが、俺と太一は全然似てねぇだろ? 血がつながってるわけじゃねぇし」 「兄弟じゃないのか? ヨシュアがタイチの兄貴だと言っていた」 「まあ、兄弟みてぇなもんだけどな。太一は俺が拾ってきたんだ」 「拾って? 日本人は他人を拾ったりするのか」 「ヨシュアだって、太一が拾ってきたんだぞ」 「ヨシュアは犬じゃないぞ。どうやったら拾えるんだ」 「ぶっ倒れてるところを、太一が背負ってここへ連れてきたんだ」  隆二は冗談の通じないジョゼをからかうのを楽しんでいた。   「あれ、ヨシュアじゃねぇか。お前、戻ってきたのか?」  店に数人の客が入ってきた。 「ああ、こいつはヨシュアじゃねぇ。ヨシュアの兄貴だ」 「へえ……驚いた、そっくりじゃねぇか」  その日店に来た常連客は皆ジョゼを見ると驚き、それから皆ジョゼに酒をおごろうとした。  ヨシュアがこの店で好かれていたことがよくわかる。  突然いなくなった太一とヨシュアのことを誰もが心配していた。 「あいつら、なんで駆け落ちなんかしたんだろうなあ。俺たちはあいつらがゲイでも別に気になんかしねぇのになあ」 「リュウジ、カケオチってなんだ」 「説明が難しいが……してはいけない恋をした者同士が逃げることだ」 「してはいけない恋……か」  確かに人間にとっては、ヴァンパイアと恋をするなどしてはいけないことなのだろうな、とジョゼは思う。  自分も人間の恋人が欲しいと思ったが、それは人間にとっては『カケオチ』ということなのだな。  ヨシュアは簡単に恋人を探しに行こうと言ったけど、それは簡単なことではないんだ……  夜が更けて、客が全員帰った時には0時をまわっていた。 「おい、ジョゼ、お前今夜はどこに泊まるんだ?」 「駅前のホテルをとってある」 「そうか。それならあとで送っていってやろう」 「いや、大丈夫だ」 「まあ、そう言うな。ちょっと片づけるから待ってろよ。まだ飲んでていいんだぞ」 「あ、そうだ。ちょっと友人に連絡を取りたいんだが、電話を貸してもらえないだろうか」 「ああ、いいぜ。そこの店の電話を使ってくれ」  ジョゼはレジのところにある電話を借りて、ホテルに電話をかける。  念のため、英語で話した。  その方が多分隆二には聞き取りにくいだろう。  ヨシュアが電話に出て、10分ぐらいで向かう、と答えた。  さて、いよいよサプライズ第2弾だ。   「日本に知り合いでもいるのか?」 「ああ、今から迎えに来てくれるそうだ」 「そうか、それなら安心だな。明日からの予定は決まってるのか?」 「ああ、日本をあちこち見て回ることになっている」 「そうか。困ったことがあったら、いつでもここへ来いよ。ヨシュアだって毎日来てたんだ」 「ああ、わかった。また来る。友人にも気を使うしな」 「なんだ、気を使う友人なのか?」 「まあ、あっちは夫婦だからな」 「なるほど。夫婦もんのところに世話になるのは確かに気を使うよな。なんだったら俺んとこに来たっていいんだぜ」 「いや、そこまで世話になるわけには……」 「遠慮するんじゃねぇぞ。これから日本に来た時は俺を頼ってくれていい」 「ああ……ありがとう」  隆二はジョゼを見ていると、心が安らいだ。  ジョゼがいると、いなくなった太一とヨシュアと繋がっている気がする。  あいつらが元気でやってる、と実感できる。  その時、店の引き戸がガラっと勢いよく開いた。 「お客さん、今日はもう閉店……って……」  洗い物をしていた隆二の手から、皿がすべりおちてガチャンと音をたてた。  隆二は目を見開いて固まった。 「ヨシュア……太一……お前ら……」 「リュウジさん! 久しぶりです。会いたかった」 「よっ隆二! 元気にしてたか?」 「……お、お前らっ! 俺をだましたなっ!」  隆二は思わず3人をにらみつけた。  ジョゼはやっとこらえていた笑いを解放する。 「別にだましてないぞ。オレは友人が迎えに来るとさっき言ったじゃないか」 「馬鹿野郎! 何が友人だ! おんなじ顔してるじゃねぇか!」  怒鳴りながら隆二の目はみるみる潤んでいく。 「心配……してたんだぞ。連絡ぐらいよこしやがれっ……イギリスには電話もねぇのかっ!」 「悪かったよ、だからこうして会いに来たじゃねぇか」  本当は太一だって我慢していたのだ。  連絡をとらなかったのは、隆二の声を聞けば日本に帰りたくなってしまうからだ。 「ジョゼだけよこして、お前ら今まで何やってたんだ」 「ボクらはホテルでその……新婚旅行ですから」 「またやってたのか」  ジョゼが呆れ声でため息をつく。  ヨシュアの襟元には赤い吸痕がのぞいている。  隆二はジョゼの言葉に思わず笑う。

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