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第26話 遊園地

「なるほど、こんな新婚夫婦と一緒じゃ、そりゃあ気を使うだろうなお前は」 「タイチは鬼畜だからな」 「とにかく、お前ら突っ立てないで座れ。ヤることヤってきたんなら、朝まで帰さねぇぞ」  隆二は嬉しそうにワインのボトルを何本もカウンターの上に並べて、グラスを4つ用意した。 「ねえ、ジョゼ、スッポンのイキチは飲んでみた?」 「ああ、あれは確かにうまかった」 「でしょ! ボクの日本でのお気に入りだったんだ」 「つまみは……ああ、太一、お前ももうモノは食えなくなったのか?」 「ああ……固形物はあんまり食えないなあ」 「そうか、なら俺だけか」  隆二は寂しそうな笑顔を浮かべながら、フルーツの用意をした。  あんなに食い意地はってた太一がなあ……食えねぇなんて。  それから4人で飲みながら、太一がイギリスに行ってからの話で盛り上がった。 「ねえ、リュウジさん、ボクらは明日遊園地に行くんだけど、リュウジさんも行きませんか?」 「は? 遊園地ってか?」 「はい! 一度行ってみたかったんです。日本の遊園地はすごいマシンがたくさんあるって」 「しかしなあ……俺は店があるからなあ」 「隆二、俺が辞めたあとは誰か雇わなかったのか?」 「ああ、なんか面倒臭くってよ。こんな小さな店ぐれぇ、俺一人でやっていけるし」 「そうか、俺が仕込みやっといてやろうか?」 「馬鹿言え、お前らの新婚旅行だろうが」 「リュウジは昼も夜も仕事をしているのか?」 「ああ、仕込みがあるからな。朝から晩まで働きどおしだ」 「そうか……大変なんだな」  少しがっかりしたようなジョゼの顔を見て、隆二は気が変わった。  店なんか一日ぐらい閉めたっていいだろう。  最近休みなしだったしな…… 「よし、わかった。明日は店は臨時休業だ。お前らにつき合ってやるぜ」 「いいのかよ、隆二」 「ああ、一日ぐれぇ休んだってバチは当たらねぇよ。せっかくお前らが遊びに来てるっていうのにさ」 「やった! リュウジさん、それなら4人で行きましょう」 「そうと決まったら、今日は寝といた方がいいな、お前らも時差ボケしてるだろ?」 「そうだな……まだ飲んでいたい気もするが、今日のところはホテルに引き上げるか」  店の外まで隆二は3人を見送った。 「じゃあ、ゆっくり休めよ、俺は朝ホテルのロビーまで行くからよ」 「はい! 楽しみにしてます」 「ああ、ジョゼ、こいつらと一緒じゃ迷惑だろうが耳センでもして寝るんだな」 「ああ、そうする」  ジョゼは隆二の顔を見てニヤっと笑った。 「仲良くなったみたいだね……」  ヨシュアは太一をつつきながら小声で耳打ちする。 「ああ……第一関門突破だな」  隆二はジョゼを気に入ったようだ、と太一も感じていた。 「ねえ、ジョゼ。リュウジさんとなんの話してたのか教えてよ」 「お前らが恋人になるまでの話」 「俺たちの?」 「ああ、タイチは死にかけたんだろ? ヨシュア、掟破りは追放だぞ」 「だって……ちゃんと結婚したんだから掟破りじゃないよ」 「なんだ? 掟破りって」 「ボクらは死にかけた人間を助けるために仲間にするのは禁止されてるんだ。一番罪が重い」 「そうだったのか……」  そうまでしてヨシュアは自分を助けてくれたのか、と太一は事故の時のことを思い出す。  なんだかもう、遠い昔のことのようだ。  翌日迎えに来た隆二と4人で遊園地へ出かけた。   「ダブルデートみたいだねっ」 「ちぇっ、新婚カップルはさっさと2人でどっか行けっ」 「じゃあ、リュウジさん、ジョゼをお願いします! タイチ、あれ、乗りに行こう!」  ヨシュアははしゃぎながらジェットコースターを目指している。 「ジョゼ、お前は乗らないのか?」 「オレは……高いところは嫌いなんだ!」 「なんだ、お前は怖がりなんだな」 「うるせぇ、あんなの何が面白いんだよ」  隆二に怖がりと言われてジョゼはムスっとしている。 「へえ、怖がりじゃねぇっていうなら、あれ入ろうぜ」  隆二が指さした先にはお化け屋敷がある。 「なんだ? あれ?」 「吸血鬼がお化けを怖がるなんてこたぁねぇよな?」 「お化け……ふんっ、ヘーキだよ、行こうぜ!」  ジョゼはムキになってずんずん歩き出した。  可愛いやつだぜ……あんなにムキになって。  ヨシュアとはまた違ったタイプで子供だな、ジョゼは。 「あー面白かった!最高!もういっかい乗りたいぐらい」 「そうか、良かったな。俺もジェットコースターなんて久しぶりだよ」  ヨシュアと太一が降りてくると、向こうからはジョゼと隆二が歩いてきた。  ジョゼの様子が変だ。  青い顔をして隆二の腕にしがみついている。 「どうしたの? ジョゼ……もしかして乗り物酔い?」 「はははっ、ジョゼのやつ腰抜かしやがってよ」  隆二はさも可笑しそうに笑った。 「うるせぇっ! あんな恐ろしいもん……日本の女は怖すぎる……」 「日本の女って……隆二、お化け屋敷はいったのか?」  太一は思わず吹き出す。  ジョゼの言っている日本の女のお化けというのは、番長皿屋敷のお菊のことだろう。 「一枚~二枚~って皿を数えるやつだな」 「うわっやめてくれっ……オレ、今晩夢見そうだ……」  ジョゼはおおげさに耳をふさぎながら嫌な顔をする。 「ふぅん……それってブラッドの女ヴァンパイアより恐ろしいの?」 「比べもんになんねぇ」 「うわ、そうなんだ。ボクはやめとこう……」 「ああ、ヨシュアはやめといた方がいいな」  ヨシュアと太一は元気いっぱいに、また次の乗り物をめざしてどこかに行ってしまった。

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