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第32話 ごほうび

 翌日の晩、店のあと片づけをしていると、九州にいるという太一とヨシュアから電話があった。  ジョゼが店を手伝っていることを知って、太一は喜んでいた。  ヨシュアに電話を代わると、ヨシュアは側にいる隆二のことを考えてジョゼに英語でしゃべりかけてきた。 「リュウジとはうまくいってる?」  ジョゼは少しだけ進展して一緒の布団で眠っている、とヨシュアに話した。  キスをしたことは内緒だ。  ヨシュアはそれでもジョゼと隆二が仲良くやっていることを喜んで、頑張って、と応援してくれた。  あさってには戻るから、というヨシュアの言葉を聞いて、ジョゼは胸がズキンと痛んだ。  太一とヨシュアが戻ってきたら、一緒にイギリスへ帰ることになっている。  もう隆二と一緒にいられる時間はあまりない。  このまま時間が止まって欲しいと思ってしまう。 「ヨシュアのやつ、なんて言ってた?」 「ああ、あさって戻るって」 「あさってか……」  片づけをしていた隆二の手が止まる。 「よし、明日は店は休みだ、お前にほうびをやる約束だったからな。何か考えたか? 行きたいところがあったら連れていってやるぞ」  ごほうび……  行きたいところなんて特にない。  このまま隆二の側にいたいだけだ。  だけど、恋人になってくれ、とは言えそうにもない。  ジョゼは隆二が料理をしているところを見るのが好きだった。  自分が人間になれるものなら、人間になって隆二の仕事を手伝いたい、とすら思えてくる。 「オレ、別に行きたいところなんかない。ただ……」 「ただ……なんだ?」 「いや、何でもない。もう少し考える」 「そうか。俺にできることならなんでもしてやるぞ」  隆二は笑いながらジョゼの頭にぽん、と手をおいた。 「本当になんでも?」 「ああ、できることならな」 「じゃあ……キスを」  恥ずかしそうにキスをねだるジョゼを抱きしめて、隆二は唇を落とす。 「お前は欲がねぇな。ちゃんと考えろ」 「いいんだ。オレはリュウジのそばにいられただけで楽しかった」 「ジョゼ……」    布団の中で隆二の腕に抱かれながら、ジョゼはごほうびの話をどう言い出そうか迷っていた。 「オレ……明日はずっとここにいたい」 「ここに? ここには何にもねぇぞ? せっかく日本に来たんだ。どこか行きてぇところはないのか?」 「オレは行きたいところなんかない。ただ……リュウジのことを忘れたくない。だから帰る前に……」  言葉をつまらせた理由が隆二にはわかっている。  少し考えさせてくれ、と言ったままジョゼには何も言ってやってない。  これ以上先に進むかどうかは、隆二の気持ちひとつだった。 「俺に抱かれたいのか」 「……リュウジが嫌じゃなかったら」 「それでお前はいいのか」 「それでいい……ヴァンパイアはセックスをする習慣がない。人間のやり方を教えてほしい」  リュウジを仲間にすることはできなくても、せめて人間のやり方で愛されてみたい。  ヨシュアはそれで幸せそうだったから。 「まったく……お前には負けたよ。どうやら、惚れたみてぇだ……」  隆二は諦めたようにジョゼの上に覆い被さってキスをした。  『ホレタ』というのはどういう意味の日本語だろう、とジョゼは頭の片隅で思ったが、考える間もなく隆二のキスに溺れていった。    リュウジの唇が乳首に吸い付くと、身体が痺れる……  タイチもこうやってヨシュアの身体のあちこちを舐めていた。  不思議だ……身体が熱くなってくる……  リュウジの手がジョゼの下半身に触れると、ジョゼはたまらなくなって声を上げた。 「リュウジ……あっ……気持ちいいっ……」 「俺がこれを口にする日が来るとは思わなかったな……」  隆二はクスっと笑いながら、ジョゼのモノに舌を這わせ、口の中に入れた。 「あっ……あっ……リュウジっ……」  ジョゼは身悶えしながら喘ぎ声を上げる。  太一がヨシュアにしていたことを、今自分がされていると思うと、嬉しくて胸が熱くなる。  口でしてもらうのがこんなに気持ちいいなんて、知らなかった…… 「ま、待って……リュウジ……オレもしてみたい」 「お前が? 噛みつかないでくれよ」  隆二は笑って冗談を言いながら、横になる。  ジョゼは自分がしてもらったのを思い出しながら、一生懸命隆二のモノを舐めてみた。  こんなことをして何が楽しいのだろう、と思っていたけど、見るのとやるのは大違いだ。  隆二の気持ちよさそうな顔を見るのが楽しい。 「お前……男同士のセックス、やり方知ってんのか?」 「知っている。タイチとヨシュアがやってたから」 「見たことあるのか」  隆二はジョゼがのぞき見してたのか、と思わず笑ってしまう。  見たことはあっても、ジョゼは多分キスもセックスも初めてなんだろう、と想像する。 「痛かったら言えよ」 「大丈夫だ」  次は指を突っ込むはずだ、とジョゼは身構える。  ちょっと気持ち悪いような気がするが、ヨシュアが気持ちよさそうにしていた顔を思い出す。  隆二は枕元にあった瓶から何かを手にとった。 「ワセリンだ。すべりがよくなるからな。手荒れに使うやつだ」  隆二の指が入ってくるのを、嫌だとは思わなかった。  変な感じだ……  ヨシュアはこれを気持ちよさそうにしていたはずなんだけど、と思っていると、隆二の指がある場所に触れた。 「あっ……ああっ……そこ……変だ」 「ここか。この辺だな」  そこをぐりぐりと擦られると、身体がぶるぶる震え出す。  経験したことのないような、快感がやってきた。  

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