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第37話 ★番外編SS2★ 人間的見解
ブラッド家の屋敷にはスポーツジムがある。
ヴァンパイアは基本的に健康なのだが、血を吸いすぎてメタボな女ヴァンパイアはダイエットのために利用しているようだ。
太一と隆二はすることがなくて暇なので、毎日連れだってジムに通っている。
ふたり並んでエアロバイクを漕ぎながら雑談するのが午前中の日課だ。
隆二は汗びっしょりになりながら、記録を伸ばそうとムキになっている。
「なにもそんなに頑張らなくても……」
息をきらしている隆二を見て、太一は呆れたように笑った。
隆二はエアロバイクが終わると、休む間もなくバーベルコーナーへ向かおうとする。
「なあ、ちょっと休憩しようぜ」
「なんか身体動かしてないと落ち着かねぇんだよっ」
太一を振り切ってバーベルコーナーへ行こうとする隆二は、なんとなくイライラしているようだ。
「どうしたんだよ、隆二。ストレスでもたまってんのか?」
「ストレスっつーかさ……」
隆二は突然足をとめて、がっくりと肩を落とす。
「悩みでもあんのか?」
ヴァンパイアになりたての隆二だから、悩みぐらいあっても不思議ではない、と太一は想像する。
「なあ、太一……お前、ヨシュアの血吸ってるんだよな」
は、はーん。悩みはそれか。
そう言えば着替えている時に、隆二の首に吸痕がついているのを見たことがない。
隆二がこっちに来てからもう10日以上立つし、もうすぐ満月だ。
イライラの原因はそれか、と太一はクスっと笑った。
「隆二、欲求不満だろ」
「いや、セックスはしてるんだけどよ」
「そうじゃなくて、血が吸いてぇんだろ?」
「まあ……そういうことだ」
「吸わせてくれ、ってジョゼに頼めばいいじゃん」
「それがなかなか言えなくってよぅ……俺はどうもまだ自分が吸血鬼になったっていう実感もないし」
順応性の強い太一に比べて、隆二は一本気で不器用なところがある。
ジョゼも意地っ張りなところがあるから、自分からは言い出せないのだろう。
「でもさ。一度はやったことあるだろ?だからヴァンパイアになれたんだから」
「吸われた時はすぐ気絶してたし、吸った時も朦朧としてたしなあ。だから、加減がわからねぇ。痛ぇんじゃないかとか、吸いすぎると貧血になるんじゃねぇのかとか……」
「そんなこと言ってねぇで、試してみりゃぁわかるのに」
ぐずぐず言っている隆二の様子がおかしくて、太一は笑ってしまう。
「じゃあさ、先に隆二が吸われてみりゃあいいじゃん。そしたら加減がわかるだろ?」
「吸ってくれ、って頼むのか?」
「だって、むこうは130年も生きてるヴァンパイアなんだぜ。新米が教えてもらうのが普通だろ?」
「……そう言われてみりゃあそうだな」
うっかりするとジョゼが130歳だということなど忘れてしまう。
隆二から見るとはるかに年下にしか見えないのだ。
「まあ、そんなに痛いもんでもないし、傷もすぐふさがるし、心配いらないって。俺はヨシュアにならいくらでも吸わせてやりてぇな。1回に吸える量なんてほんのちょっとだから、貧血の心配もないと思うぜ」
「しかしなあ……なんか抵抗あるぜ、やっぱり。血を吸うってのはよ」
「一度吸われてみりゃあ、気が変わると思うぜ」
太一はニヤっと意味深な笑いを浮かべる。
あんな気持ちいいことはない、と言ってやろうかと思ったがそれはやめておいた。
ああいうことは、他人がとやかく言うより自分で体験する方がいいに決まっている。
「多分ジョゼもそろそろ欲求不満になってると思うぜ」
「そうか……そうかもしれんな」
隆二は太一の言葉に納得して、ちょっとすっきりしたようである。
ヨシュアとジョゼは太一たちがいない間に、台所で熱心にラズベリーの実をつぶしながらおしゃべりをしている。
隆二にシャーベットの作り方を習ったので、最近ハマっているのだ。
「ええーっ? まだ1度も?」
「うん……最近は夜寝る時、セックスもしてない」
ジョゼの顔は不安そうだ。
一ヶ月もたたないうちに隆二に飽きられてしまったのか、と心配している。
「飽きたりなんかしてないと思うけどなあ、リュウジさん、優しそうだし」
「まあ、優しいのは優しいんだけどさ。リュウジはオレの血を吸いたいとは思わないのかなあ」
「うーん……リュウジさんはタイチに比べたら辛抱強そうだもんね。ひょっとしたら我慢してたりして」
「ヴァンパイアになりたてだと、あんまり吸いたくならないのかな?」
「いや、かえって吸血衝動は強いはずだよ。タイチはそうだもん」
ヨシュアの首筋には毎日いくつもの新しい吸痕がついている。
それを見るたびに、ジョゼは不安になるのだ。
「悩んでないでさ、ジョゼから誘ってみればいいいじゃん」
「誘うって……オレ、そんなことリュウジに言えねぇよ!」
奔放なヨシュアに比べて、こういうことに関してはジョゼの方が純情だ。
「絶対リュウジさん喜ぶと思うんだけどなあ……」
ヨシュアは太一とセックスをしている時のことを思い浮かべてみる。
ヨシュアが積極的になるほど、太一は嬉しそうな顔をするので、ヨシュアは太一を喜ばせようといつも頑張っているのだ。
「タイチはねぇ……ボクが上に乗って自分で挿れて血を吸うと一番喜ぶよ」
「オレ、そんなことできるかなあ……」
ジョゼはまだあまりセックスに自信がない。今のところ隆二にまかせっぱなしだ。
だから飽きられてしまったのかな、と急に不安になってくる。
「イキそうになった時に吸うんだよ! タイチはそれが一番気持ちいいって言ってたもん。きっとリュウジさんだってそれでその気になるって!」
「頑張ってみようかな……今晩」
「うんうん。もうすぐ満月だしねっ」
機嫌よくシャーベットをかき混ぜているヨシュアの襟元をちらちら見ながら、ジョゼはうらやましいなあとため息をつく。
オレもあんなに痕がいっぱいつくぐらい、リュウジに激しく求められてみたい……
無理矢理押し倒されてでも吸われてみたい……と妄想していたら、思わず下半身が熱くなってしまったジョゼだった。
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