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第42話 発情スイッチ
ジョゼとヨシュアは窓の下に座り込んで、どうする……と作戦会議になった。
しかし、太一と隆二が空手をやっているところはかっこいいし、やめさせたくはない。
それでなくても暇をもてあましているのだから、唯一の趣味を取り上げるわけにはいかないだろう。
「こうなったらさ、やっぱりボクらの存在をアピールしないと」
「どうやって?」
「タオルや差し入れ持って、応援に行くとか」
ヨシュアは女子校生のクラブ活動のようなことを言い出す。
「う~ん……そんなことで効果あるかなあ」
「ボクらがラブラブなところを見せつけたら大丈夫だって!」
「ラブラブねえ……」
ジョゼは隆二と人前でラブラブな空気になれる自信がまったくない。
「とにかくさっ。明日からは見学に行って見張らなくちゃ!」
ヨシュアはやる気まんまんである。
まあ、隆二にも見学に行くとは言ってあるし、明日はそうしようとジョゼも同意する。
ヨシュアとジョゼはその日のぞいていたことは内緒にして、部屋に戻った。
「ヨシュア~ただいま~疲れた~」
太一は帰ってくるといつものように、ヨシュアにまとわりついて隙あらば血を吸おうと狙ってくる。
ヨシュアは逃げ回りながら、これだ、と心の中で手を叩く。
みんながいる前で、太一に自分を追いかけさせたらいいのだ。
太一が自分だけしか眼中にない、というところをぜひ見せびらかしたい。
太一は別に人前で血を吸うのも吸われるのも平気だから、うまく誘えば追いかけてくるはずだ、とヨシュアは画策する。
ヨシュアはその日は逃げ回り続けて、太一に血を吸わせてあげなかった。
明日まで我慢してもらった方が効果的だと思ったのだ。
翌日太一と隆二が出かけてから、ヨシュアとジョゼは作戦会議をする。
「え~っ! オレ、そんなのムリだ」
「じゃあ、ジョゼはリュウジさんを他の人に盗られちゃってもいいの!?」
「それは……嫌だけど」
「だったら頑張らなくちゃ!」
ヨシュアの言い分はわかるが、ジョゼは人前で隆二に首筋を狙われること自体恥ずかしくてムリだ、と思う。
それに、隆二は太一と違ってそこまでがっついてない。
ジョゼが本当に嫌がることは隆二はしないのだ。
ジョゼはヨシュアみたいな露骨な作戦はムリだけど、みんながいるところで隆二とキスぐらいならしてみたいな、とヨシュアに言ってみる。
それは人間の挨拶なので、比較的ハードルが低い。
まあ、とにかく仲良くしているところを見せつければいいわけで、ヨシュアもジョゼの計画に納得する。
よし、頑張るぞ、と気合いを入れて2人はジムへ向かった。
ジムをのぞいてみると、昨日よりもまた白帯ヴァンパイアの数は増えている。
太一と隆二の人気は二分しているようで、ふたりをそれぞれ十人以上のヴァンパイアが囲んでいる。
太一と隆二は日に日に乱取りの相手が増えてきているので、少しお疲れのようだ。
ヨシュアとジョゼがやってきたのを見つけると、太一は早々に練習を切り上げてヨシュアのところへ飛んできた。
それだけでもヨシュアはちょっと嬉しい。
「差し入れ持ってきたんだ」
ヨシュアとジョゼはできたてのラズベリーシャーベットを差し出す。
「サンキュー、ヨシュア!」
太一はご機嫌でヨシュアと並んでシャーベットを食べ始める。
まだ練習している白帯たちは、いったい何を食べているのだろうと気になってちらちら見ている。
ヴァンパイアがモノを食べること自体めずらしいからだ。
ヨシュアがこれ見よがしに、自分のスプーンで太一の口にシャーベットを運んであげると、太一は無邪気にそれに食いついている。
「タイチ、ほっぺについたよ」
ヨシュアが太一の頬にキスをすると、太一は照れることもなくヨシュアの唇にキスを返す。
太一はすでにかなりヴァンパイア化しているので、キスぐらいは平気のようだ。
いいなあ……とジョゼはそれを横目で見ているが、なかなかヨシュアのように行動的にはなれない。
ジョゼは人前でキスをするのは平気なのだが、隆二が嫌がるのではないかと思うとできないのだ。
せめて隆二にシャーベットを食べさせてあげようと差し出すと、隆二は微笑みを浮かべてジョゼのスプーンから食べてくれた。
ジョゼはそれだけで十分嬉しかったのだけど、突然隆二がジョゼの頭を抱き寄せて唇を重ねてきた。
ジョゼの心臓は飛び跳ねる。
隆二の舌がすべりこんできて、ジョゼの口の中にラズベリーの実が押し込まれた。
ほんの一瞬のできごとだったけど、隆二は照れたように少し顔を赤くして、また黙ってシャーベットを食べ始めた。
隆二ファンのヴァンパイアはちょっとうらやましそうに、ちらちら見ている。
ジョゼはシャーベットの中からラズベリーの実をほじくりだして、今度は隆二に返してみる。
舌先にのせて、はい、と差し出すと隆二は照れながらまたそれを、ペロっと食べてくれた。
ジョゼ的大奮闘である。
向こうでは太一が、ついに発情スイッチが入ってしまったようで、ヨシュアの首筋を狙い始めた。
「ダメだよ……タイチ……みんなが見てるから……あんっ……」
ヨシュアが騒いでいるので、白帯ヴァンパイアたちは注目している。
ヨシュアはさんざん太一をじらしてから、すくっと立ち上がって逃げ出した。
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