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第44話 必殺
仕方がないので太一はヨシュアをお姫様抱っこで抱き上げると、部屋に連れて帰って休ませることにする。
「あれ? 鍵かかってら」
ヨシュアを抱いたまま、足でバンっと扉を開けると、外に鈴なりになっていた白帯ゲイたちがばたばたと尻モチをついた。
「何やってんの? お前ら。あ、そうか鍵で中に入れなかったんだな。もういいぜ」
ヨシュアを腕に抱いた太一を見て、白帯ゲイたちは目を剥いた。
太一の柔道着の襟元には何カ所も生々しい吸痕と、そこから滴る血……
それだけでも驚きなのに、気絶したヨシュアの首筋にはその3倍ぐらいの吸痕から血が流れ出ている。
信じられない……
いったいどれだけ吸ったんだ……
元人間の性欲は恐ろしい……
殺されてしまう……(死なないが)
恐怖におののく白帯ゲイ吸血鬼たちに、太一はにっこり微笑む。
「ヨシュアを寝かせてくるわ。また明日な!」
太一のファンだったゲイたちは『とてもじゃないがヨシュアには敵わない』と尊敬のまなざしで見送っていた。
隆二のファンのゲイたちは、ジムに残してきた隆二カップルが気になり始めて、あわてて引き返す。
「リュウジ……ダメだよ、こんなところで」
ジョゼを押し倒した隆二は、笑いながらジョゼに優しくキスをしてやる。
「キスしたかったんだろ? さっきうらやましそうに太一らを見てたくせに」
「うん。ちょっとうらやましかった……」
ジョゼが顔を赤らめると、隆二はそんなジョゼが可愛くてまた何度もキスをしてしまう。
誰もいないのをいいことに、ジョゼと隆二はマットの上にころがって飽きるほどキスをしていた。
「リュウジがかっこよくて、心配だったんだ」
「何が心配だ」
「だって、リュウジのファンが日に日に増えていくから……リュウジは優しいし」
「だけど、こういうことをするのはお前だけだろ?」
隆二は溶けるような深いキスをして、少しずつそのキスを首筋に移動させていく。
「あ……あ……リュウジ……」
ぎゅっとしがみついたジョゼを自分の身体の上にのせてやり、下から抱きしめて自分の首筋にジョゼの頭を押しつける。
「ほら、誰も見てないから吸えよ……俺はお前のものだ」
「うん……リュウジ……大好き……」
ジョゼが隆二の首筋に顔を埋めたのを見て、窓の外の隆二ファンは固まった。
す・ご・い場面になってるっ……!
隆二に抱きしめられているジョゼは、もはや外のことなどまったく気にしていなかったが、隆二は窓の外にはりついている白帯たちに気づいていた。
だけどなあ……今、いいところなんだよなあ。
今さら止まれないよなあ。
俺は別にいいんだけど、ジョゼは怒るだろうなあ……
隆二はジョゼの上にのしかかると、ジョゼの視界をふさいでしまう。
「ジョゼ……愛してる……お前だけだ」
とろけそうな隆二の甘いセリフに、ジョゼはもう隆二しか見ていない。
「目、閉じろ……」
隆二はジョゼの首筋に思い切り牙を立てる。
ジョゼの身体がびくん、と跳ねて小刻みに震え出す。
う。
わ。
わ……
窓の外では鼻血噴出やら貧血やら過呼吸を起こす白帯が続出。
「あ……ああ……リュウジっ……もうダメっ」
「まだだ。じっとしてろ」
隆二は押さえつけながらさらに反対側にも牙を立てて、いつもの倍ほど血を吸うと、ジョゼを気絶させてしまった。
ごめんな、ジョゼ。
外にうるさい奴らがいるから、ちょっと眠っててくれ。
隆二はジョゼを抱き上げると、バンっとドアをけっ飛ばして開けた。
窓の外の白帯たちは、口元に血を滴らせている隆二をぼーっと見て、目をハート形にしている。
「邪魔しないでくれて、助かったぜ」
隆二はニヤっと笑いかけると、ジョゼを抱いてスタスタと立ち去った。
すごい……
こっちも気絶させた……
こっちは数は少ないが、一撃必殺だ……
やっぱり元人間は恐ろしい……
殺されてしまう……(死なないって)
『とてもじゃないが、ジョゼには敵わない』
その日、ジムに来ていた白帯ゲイたちは、絶対に元人間には手を出すまい、と心に誓ったのである。
なので、一応ヨシュアとジョゼの画策は、本人たちが気絶している間に成功したようである。
しかし若干何名かは、押し倒されて気絶してみたい、と妄想したヴァンパイアもいたとさ。
【番外編SS3 ヴァンパイア的見解 ~End~】
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