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第46話 女装してみた
暇を持てあましていたメリッサは大喜びだ。女の子がいないので、一度は自分の子供に可愛いドレスを着せてみたかったようである。
「ヨシュアちゃんならきっとドレスが似合うわよ~」
「うん、ママの若い頃の服とかあったら貸して欲しいんだけど」
「ママの若い頃っていったら、フランス革命の前に王妃さまから頂いたドレスがあるわよ」
「そ、それはちょっとデザインが古いのでは……」
「それならいっそ買いに行きましょうよ! フランスに行けば素敵なドレスがいっぱい買えるわよ」
「い、いや……ちょっと急いでるからさ。今あるやつでいいから」
「あらそう。残念だわ。じゃあ、ちょっと待ってて。ヨシュアちゃんに似合いそうなのを見繕ってくるわ」
メリッサママは鼻歌を歌いながら衣装部屋に姿を消した。
なんせ数百年分の膨大な量のドレスを貯蔵しているのだ。
「これなんかどう?」
メリッサママが持ってきたのは、フランス人形が着るようなぴらぴらフリフリのレースだらけの白いドレスだ。
「うーん……それはちょっと……」
「じゃあ、こっちは?」
セクシーな真っ赤のチャイナ風ドレス。
「それもちょっと……」
「なら、これね」
ヒョウ柄のタイトなミニのワンピース。
「いや、そういうんじゃなくて……もっと普通のやつはないのっ?」
「あら~ヨシュアちゃんは好みが難しいのねぇ」
「オレはこれが似合うと思うぞ」
「え~この白いやつ?」
ジョゼが指さしたのは最初のフリフリドレスだ。
「着てみたら? 試着してみないとわからないじゃん」
「そうよ! 着てみなさいよ」
ふたりにうながされて、しぶしぶヨシュアはそのフリフリを着てみることにした。
メリッサはご機嫌でヨシュアにメイクまでして、頭にリボンをつけてくれた。
「か、可愛いわぁ~! ヨシュアちゃん!」
「へ、変じゃないかな……」
「いや、思ってたよりずっと可愛い。それならタイチも絶対喜ぶ」
「そうかなあ……」
「さっそく見せに行ってみようぜ! せっかくメイクまでしたんだし」
「気にいらなかったらまた戻ってきて着替えたらいいわよ~いくらでもドレスはあるんだから!」
メリッサの部屋をあとにして、屋敷の中を歩いていると、すれ違う男たちは皆目をハート型にしてヨシュアに見とれている。
誰もヨシュアだとは気づいていないようだ。
「ほら、みんな見てるぜ」
「どこか変だからかなあ」
「違うって! 見とれてるんだよ。自信持てって」
こそこそとジョゼと囁き合っていると、ひとりのヴァンパイアが近寄ってきた。
「おい、ジョゼ。こちらの美しいお嬢さんは誰なんだ? みんな気になってるんだ。紹介してくれよ」
「あ、この人は……メリッサママの知り合いなんだ。でも結婚してるから、狙ってもダメだよ」
「なんだ、既婚なのかあ。残念」
がっくりとうなだれて、そのヴァンパイアは去っていった。
ヨシュアもそれでなんとか自信を持ったようだ。
「だ、誰っ……? ジョゼの知り合い?」
太一は久しぶりに女の姿を見たので驚いたのか、呆然とヨシュアを見ている。
ジョゼはクスクス笑いながら、少し太一をからかってやろうと思っている。
「きれいなコだろ? タイチ、紹介してほしい?」
「いや……俺にはヨシュアがいるから、友達にしかなれねぇけど」
太一は赤い顔をしてちらちら見ているが、近寄ってくる様子はない。
「このコはタイチのことが気に入ったんだってさ。な? そうだろ?」
ヨシュアがこくん、とうなずくと太一はぎょっとした顔をしている。
「い、いやあ……お、俺っ、あのっ、ごめん! 俺、女に興味ないからっ!」
逃げだそうとした太一をジョゼがつかまえて笑い転げる。
「タイチ、よく見てみろよ。まだわかんないの?」
「えっ……?」
まじまじとヨシュアの顔を見つめて、太一は仰天した。
「ひょっとして……ヨシュアっ?」
「マジかよ……」
隣で隆二まで驚いている。ふたりともまったく気づかなかったようだ。
「キレイだ……ヨシュア……ウェディングドレスみたいだ」
太一はとろん、とした顔で目が完全にハートになって固まっている。
「ほんとにヨシュア?」
「うん。変じゃないかな……」
「いや、すっっっっごく可愛い。でも、なんで?」
「だって……タイチが女の人のビデオとか見てるから……女の人と浮気したいのかな、って思って」
「バカだなあ。そんなわけないだろ。いや、あれにはちょっとワケがあってさあ」
焦って言い訳しようとする太一に、隆二が助け船を出した。
あれは太一があんまり男に寄りつかれるから、自分がゲイになってしまったのかと心配して試しに見てただけだ、と説明する。
そして、太一も隆二も女のエロビデオにはまったく無反応だった、と身の潔白を訴えた。
それを聞いて、一応ヨシュアとジョゼは納得する。
「浮気なんて絶対しないからさっ! 俺はヨシュアがいればいいんだ。ヨシュアよりきれいな男も女も絶対いないっ!」
「ちょっと待て。ジョゼはほとんど同じ顔してるんだから、同じレベルだ」
「あ、まあ、そうだな。ヨシュアとジョゼが一番だっ!」
太一は嬉しそうに鼻の下をのばして、ヨシュアをぎゅっと抱きしめる。
「ヨシュア……ああ、めちゃくちゃ可愛いっ! 今日はずっとそのままの格好でいてくれよ」
「うん。タイチが気にいってくれたんだったら」
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