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第50話 結婚写真
「お、重いよ……」
「十二単は一番重いんですよ」
「前が見えない……」
「綿帽子はそうやって深くかぶるんですよ」
メイクさんはふたりの外国人の男を相手に、笑い転げている。
「大変だな……日本の花嫁って」
「うん……ボク、苦しい……」
「さっさと撮って脱ごうぜ」
スタジオへ行ってみると、太一と隆二は待ちくたびれた、というような顔で待っていた。
「ヨシュア~よく似合ってる」
「変じゃないかなあ」
「ジョゼ、キレイだぜ」
「リュウジも……かっこいい」
褒め合いながら照れている2組はホンマモンのゲイカップルなのだな、とカメラマンは気づいたが、そこは商売なので気にしないことにする。
なにより、花嫁ふたりは本当に見た目は絶世の美女なのだ。
そして、手際よく撮影は進み、夕方には写真ができあがる、ということだった。
結婚写真なので多少仕上げに時間がかかるようである。
どうせ暇なので、今度は目当ての舞妓の衣装を着てみよう、ということになった。
こちらは時間制のレンタルになっていて、着せてもらったらその格好で近所に散歩に行ってもいいらしい。
他に客もいないので、従業員はよってたかってジョゼとヨシュアにいろいろな着物を着せたがる。
それぞれ一番気に入った着物を選んで、舞妓の格好を仕上げてもらった。
太一と隆二は適当な男物の着物をレンタルする。
隆二はもともと和食の職人なので、着物は着慣れていてさすがに貫禄がある。
太一も仕事で何度か隆二に着せられていたので、違和感はない。
さっそくスタジオで写真を撮ってもらうと、カメラマンがジョゼとヨシュアだけの写真を撮りたい、と言い出した。
あまりにふたりがキレイなので、店に写真を飾りたい、というのだ。
モデル料は払う、とまで言ってきた。
それじゃあ、と隆二が交換条件を出す。
「今、こいつらが着てる着物、売ってくれねぇかな。気に入ったみてぇだし、同じようなのを探すつもりだったんだが」
「中古で良ければいいですよ」
店主であるカメラマンは即答した。破格の値段で売ってくれるらしい。
交渉成立だ。
改めて着物を探す手間がはぶけて、隆二も助かった。
「じゃあ、散歩に行くか」
「だけど……これ、歩きにくい」
舞妓の履き物は厚底サンダルのような草履だ。
ジョゼとヨシュアは背が高いので、普通の草履に変えてもらったが、それでも慣れない二人は歩きにくそうだ。
「気をつけろよ」
太一と隆二は、舞妓ふたりの手を取ってゆっくり歩いてやる。
ジョゼとヨシュアは大喜びだ。
舞妓の格好をしていれば、隆二と太一はどこででも手をつないで歩いてくれる。
女の格好をしているとこういうメリットがあるのだな、と思っていた。
和服姿の男前ふたりと、舞妓姿のモデルのような外国人は注目の的だ。
ちょっと休憩していると、すぐに人だかりができて、一緒に写真を撮らせてほしいと頼まれる。
隆二と太一は面倒くさいので放っておいたが、ヨシュアは人が良いので断れないようだ。
ジョゼは日本語がしゃべれないふりをして、英語で適当に相手をしている。
男なのか、女なのか、と無遠慮に聞いてくる人がいて、ヨシュアが正直に男だ、と答えると周囲から感嘆のため息が漏れた。
男でもキレイなものはキレイだ、と感心しているようである。
茶屋にはいったり、土産物屋をのぞいたりして、夕方に戻ると写真はできあがっていた。
ジョゼとヨシュアは上から下まで小物類も全部買い取って、そのままの格好で旅館に戻ることにした。
あまりに皆にほめられたので、ちょっとしたスター気分である。
ジョゼたちが買い取った着物は、撮影用に簡単に着られるようになっていて、帯もとりつけるだけだ、と説明を聞く。
詳しい着付けの方法がのっている本もサービスしてもらった。
ジョゼとヨシュアがゴールドカードで支払いをすると、店主はまたぜひ来てくれ、と愛想よく表まで送ってくれた。
表のショーウィンドウにはすでに、ジョゼとヨシュアの写真がど真ん中に飾られている。
「あー楽しかったねえ」
「うん、まあちょっと疲れたけど」
ジョゼとヨシュアが仲良く歩いているところを、太一と隆二がそれぞれビデオカメラを構えて撮影している。
心の中では、この美しい恋人の着物姿とヤりたい、という下心まんまんだ。
そのために着物を着せたまま連れて帰っているのである。
ベッドで着物じゃあ雰囲気が合わないだろうと、わざわざホテルじゃなくて旅館をとってある。
太一は多分ヨシュアはビデオを撮らせてくれるだろう、と楽観しているのだが、隆二はどうやってジョゼを押し倒そうか妄想でいっぱいになっていた。
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