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第4話

*****    ・・・がそれもこれも。 もとはといえば・・・。  いかな最大の難関だとばかり思っていた父親であり会長でもある征臣が、拍子抜けするくらいすんなり二人の・・・男同士の恋愛を受け入れ許してくれたにしても。 (それには実は――一人の父親として漠然と『この子は生涯誰とも結婚(恋愛)しない気がする』と感じていたため。息子に好きな人ができただけでなく、その相手が我が子の激情を難なく受け止めることができる人であっただけで、もはや奇跡でしかない。となると・・・ただの父親として息子の幸せを思うなら、黒子が男性であることなど取るに足らぬ些細なこととしか思えなかったというのが正直なところであった・・・なんて経緯があったりするのだが)    一方で――未だ社会的に同性婚が認められていない現状を鑑みるに、やはり男の自分が伴侶では・・・グループ全体ともなれば、数十万にも及ぶ社員やその家族を背負って立つ、“社長・赤司征十郎“を支えるどころか、返って足を引っ張るだけなのではと。 本来しなくてもいいはずだった災難や苦悩まで、黒子のせいで余分に背負わせてしまいはしないかと。  そんなふうに・・・・・・せっかく五年間の交際の間に少しずつ二人で克服してきたはずだった諸処がまたぞろ息を吹き返し、黒子を懊悩させる。  しかも悪いことは重なるもので――同性同士で事実婚した二人の強力な後ろ盾であり、心の支えでもいてくれたはずの義父の征臣は今も入院中で不在な上。 ・・・よりよって患っているのが心臓と聞かされて、それでもなお相談を持ち掛ける気になど到底なれるわけもないし。  そこへもってきて、さらに追い打ちをかけるように・・・。 日一日と年度末が近づくにつれ、過密さを増す一方の・・・スケジュールや出張やらのおかげで俄然家を空けることが多くなり、ゆっくり会話を交わすのも難しくなってきた――。  ・・・その誰にも理解りやすいだけでなく、観る者を惹きつけ離さない企画力が評判を呼び、十数年前の開始当初から変わらぬ、絶大な支持を誇る経済情報番組が、半年に一度は特集を組むほどのカリスマ・・・ビジネス界の寵児にやっと訪れたつかの間の休息に雑音を入れるなど、もってのほかであるし。  ・・・となれば。  もともと作家という職業上、どうしたってこの・・・大正ロマンの趣きをたっぷり遺す大邸宅に閉じこもりがちになるが・・・。 そこへもってきてさらに。物語を紡ぐことに集中したいなら、孤独になるのが一番手っ取り早いとかいう、黒子を含めた多数派の流儀はますます・・・。  ・・・とはいえ。 それはひとえに自分自身が招いた惨事ではあるのだが――孤立無援状態の彼にとって、絶望的なくらい精神衛生上よろしくない・・・というか。 鬼の首でもとったかのごとく・・・“それみたことか“とつい言いたくなるくらいわかりやすく、本業にも悪影響が出始め執筆が滞るようになると、あとはもう崖を転がり落ちるがごとく。  いっそ開き直って、『お見事』と誉めそやさねばやり切れぬほどに完璧な負のスパイラルの出来上がり――。 ・・・と。これっぽっちもする必要のない、自虐や疑心暗鬼にいいように踊らされ。 挙句、気力も体力も・・・なにからなにまでこの不毛なひとり相撲に使い切って、にっちもさっちもいかなくなり『もうダメだ、どうにもならない、ムリだ、限界だ』と。 自分の愚かさと無力さ加減に絶望し、こんな自分はやっぱり赤司のそばにいてはならないから、これ以上害になる、迷惑をかける前に潔く姿を消さねばならないと思い詰め。  書けぬと足掻いている途中、糸口を求めてさまよっていた電子空間で目についたPR広告を辿り・・・。 スランプ脱出のヒントではなく、日本一と言い切ってかまわぬほど多忙を極める人が相手だからこそ通用するというか。 だからこそ。そうは簡単に身体の自由が利かぬ天帝の眼を眩ますことのできそうな――外務省管轄のジャ〇カによる人材募集にひとまずの運命を託し、短期海外派遣の任務に就いた黒子テツヤであった。 のだが・・・・・・。 (・・・がそれでも。かの赤司が相手となれば、長く見積もってもせいぜい三年がいいところだろうなと覚悟していたが、それくらい月日が経てば今よりずっと冷静に物事が見られるようになっているに違いないし、落ち着いて話し合うこともできるのではと・・・いやそれどころか普通に考えればとっくに見限られているだろうと、再会したとたん三下り半を突き付けられ捨てられるのがおちだとまで、むしろそうされて当然だと、自業自得だとまで思っていた)

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