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第5話

*****   「・・・あのココ、は」 「ん? ああ、(大事な青い鳥を閉じ込めておく鳥かごが必要だったからね)買ったんだ」 「は? 買った? って・・・えぇぇ?!」  ――そうだな。あれはお前が家(赤司の実家)からいなくなって、二週間ほど経ったころだったかな?  腕利きだって触れ込みがあって依頼することにした興信所(実にその数6件)が、束になってかかっても・・・お前の行き先について手がかりすら掴めずにいる頃にね? 思ったんだ。 『無事お前を取り戻すことができたなら必ずや――“もう二度と逃げ出そうなんて思わないくらい。それくらい頑丈な鳥かごをあつらえなければダメだ”ってね?』と・・・・・・。  まさかとは思うが――パートナーとして3年暮らした赤司の実家でなく。 本社から車で10分ほどの距離に建てられた、見も知らぬ高層マンションに連れてこられたことに困惑するあまり、やはり嘘を吐かれていたのではないか? とそう・・・。  ――とうとう黒子の居場所を突き止め、東京へ、赤司のもとへ戻れと・・・。  『依頼主はいくら時間と費用がかかろうが、絶対にアナタを探し出す気でいる。だから本気で自由になりたいと思うなら、一度戻りちゃんと話し合うほうが早道だ』と迫ってきた、どこぞの興信所の探偵がその後惑う黒子に示した・・・。  『赤司社長がどこぞのお偉いさん(経団連所属の重鎮)のお孫さんとお見合いされただとか、お付き合いが順調だとか・・・そんな話しついぞ耳にしたことはありませんし、もしそれが事実であるとすれば、ゴシップ誌や経済誌どころか・・・財界や政財界まで巻き込んで上へ下への騒ぎになってしかるべきですが、煙すら立ってないでしょう? ・・・つまりはそういうことです』だとか。 『・・・さらに言うなら、そもそも貴方様が気に病んでらっしゃる征四郎会長の御容態にしたところで、もうすっかり快癒されて、今は長らく床に就いている間に落ちた体力を戻すべく精力的にリハビリに励まれていらっしゃるとのことですし――だからアナタのおっしゃるそれは、すべてただの誤解で杞憂ですよ』とかいうあのもっともらしい説明は、所詮方便だったのでは? ・・・と。  やはり、本当に本当のところ・・・黒子の失踪後購入された物件は、見合い相手との新居とするためのものでは? とか。  ただそれならなんのために・・・一年半もの月日を費やしてまでボクを探し出したのかとか。  ・・・あるいは。 なるほど、もしや・・・。 ボクとのことがうやむやになったままだとすっきり次に行けないから、きっちり清算したのち晴れて結婚式なり披露宴なり――大々的に公表したかったんだろうか、奥さんになる人にねだられたりしたんだろうかとか。  要はもうお前なんか必要ないってことを見せつけたかったんだろうか、しっぽ巻いて逃げ出したボクに復讐するつもりなのか、罰を与えるつもりなのかと。  わかってはいたがやはり・・・『ぶつかりもせず・・・逃げて隠れてじゃ、結局何も解決しないって・・・・・・しでかしたことの報いはきっちり受けろって、きっとそう神様もいってるんだろうな』みたいなことを。  ――たった一年半会わぬ間に、一層渋くなったというか。愁いを帯び、哀愁すら漂ってきそうなというか。 そういう類の色気や凄みまで増し・・・ますます人間離れしつつある感すらある彼――赤司がセキュリティロックを解除する、そのわずかの間にめまぐるしく・・・ぐるぐると。  久方ぶりに戻るや、洗礼のように浴びせられる大都会東京ならではの・・・からからに乾き凍てつくビル風に。無防備にさらされた・・・温暖な気候にすっかり慣れきった頬や耳を容赦なくなぶられながら。  立ち聞きで、しかも話しを最後まで聞きもせず、勝手に悪い想像ばかり膨らませた挙句。 当の赤司に直接ぶつかり真偽を確かめることもせぬまま・・・やっぱりボクじゃ赤司君を幸せにできないだの、立場上彼ばかりが矢面に立たされ中傷の的にされるのが耐えられないだの、やっぱり男同士はリスキーすぎるだの、不釣り合いだのいう――。  らしくもない弱気の虫にかられるまま。こんなのは愚か者のすることだとわかっていながら、自分で自分の首を絞め、案の定にっちもさっちもいかなくなって・・・結果現在に至る。 ―――とかいうただの自業自得としかいいようのない現状の只中で、とっくに限界寸前な彼をますます絶体絶命の窮地においやる・・・身内で好き放題暴れ回る疑心暗鬼に、いいように弄ばれっぱなしで・・・だから。 『もう無理、キャパオーバーです』、『これあれだ。“お前はもう死んでいる“とか、MPゼロとかってやつ・・・』、『はぁ~・・・ほんと疲れた。ほんとムリ』、『から、さっさとどうにでも・・・好きにしてくれ』・・・などという満身創痍・疲労困憊状態を通り越し。いよいよやけくそ状態に進化しつつある、その見事なまでの空回りっぷりを知ってか知らずか……。

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