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第6話

*****  「まったく・・・だから言わんこっちゃない、」 「へ?」 「(いくら温暖な八丈島から戻ったばかりとは言え)そんな薄着じゃ風邪ひくから、オレのコート着ていなさいって言ったのに・・・ちっとも言うこと聞かないから」 「ああ・・・はい・・・」  興信所の探偵に付き添われて羽田に到着した黒子テツヤの身柄を引き受けたその足で、本社に向かい・・・。  誕生日当日の午後、突如有能な第二秘書(と元洛山バスケ部員一同)から――。 一日半の休暇と、失踪から一年半ぶりに東京に舞い戻った(捕まった)パートナーを・・・「これが今年、私たち(洛山バスケ部OB)から征ちゃんへの誕生日プレゼント♡」と贈られ・・・たはいいが。  この、青天の霹靂という以外例えようのない・・・まったくもって予想だにしなかった事態を前に、さすがの赤司征十郎ですら、鳩が豆鉄砲を食らったみたいな表情を張り付けたまま――。  『うふ♡ やってやったわ! サプライズ大成功よ~! みんな喜びなさ~い!!』とばかり、ウッキウキでスキップしながら・・・。 ・・・ひたすら頭の中に『確かにさっき実渕は・・・テツヤを見つけたって(言ったか)?』『空耳じゃないよな?』『あの子がオレのもとに帰ってきた? ホントに?』『一年半ぶりにまたテツヤに会える?』『が・・・もしこれが夢だった・・・なんてことになったら立ち直れない自信があるが、本気で信じていいのか・・・???』・・・てな具合に次から次へ、脳裏をかすめていく期待半分猜疑心半分の思考とドキドキ具合に、いいように振り回されっぱなしの社長様を正面玄関まで連行。 (ちなみにそんな二人が織りなすコメディの一場面みたいなやりとりを、3メートルほど後ろから・・・『久しぶりに面白い赤司様見ちまったな・・・ククッ、これ間違いなく永久保存すんの決定しただろ』と、うっかり漏れ出しそうになる笑いを堪えつつ。 事前に葉山と根武谷からの・・・『(黒子を羽田まで迎えに行くため)オレら見られないから、赤司がどんな反応したかとか・・・撮っといて! んで後で見せて!』とのリクエストを叶えるべく、自前のスマホにムービーを収める優しいセンパイ=影の薄い第一秘書=黛千尋氏である)  ――するや。自動ドアをくぐり抜けてきた美貌の社長とオネエ秘書+3メートル後ろに控える野次馬たちの前に、タイミングを見計らったかのように黒塗りのリムジンが現れる・・・。  「それじゃ征ちゃ・・・じゃない社長、また木曜日にね!」 「ん? ああ、」 「あ、そうそう・・・休暇中の食料なら心配無用ですからね? 後でフロントコンシェルジュ宛に届けとくから受け取って」 「ありがとう、助かるよ」 「それじゃ小太郎、栄吉・・・くれぐれも二人のことよろしくお願い・・・ね?」 『黒子だ・・・本当に黒子がいる・・・オレの目の前、に・・・』 「オウ、任せとけ」「はいは~い」 『テツヤ・・・テツヤ──お前という青い小鳥をとうとう取り戻したからには、今度こそ絶対逃がしてなどやるものか』  ――と。機関銃のごとく畳みかけてくる実渕により、所在なさげに高級シートに埋もれる迷子の少年・・・に見える黒子の隣、すなわち後部座席に押し込められたと思ったら・・・。   「くれぐれもいいお誕生日にしてちょうだいよ~♡ ハッピーバースデー征ちゃぁ~ん♡♡♡」 「でもだからっていきなりがっついちゃダメよ? ・・・本番は年末までとっといてちょうだい・・・ね? ほどほどによ? まずはじ~っくり優しく・・・(テツヤちゃんの)緊張をほぐすように、ね?」  ・・・とかいう、昼下がりのオフィス街ではちょっと・・・なアドバイスまでくれるおネェに、「おま、昼間っからなんつーこと言い出してんだ」とため息交じりのあきれ顔で突っ込む、助手席のマッチョの助言にも・・・。 「なに言ってんの!? 愛し合う二人にとって性の不一致は「はいはい、わかったわかった(みなまで言うな)」」・・・この通りどこ吹く風で無双してみせる最強の秘書様が・・・・・・。 「ね? 征ちゃんもそう思うわよね?」 「・・・! お前の言う通り素晴らしい誕生日になりそうだよ実渕、それに黛さん・・・もちろん葉山に根武谷も。みんなありがとう」 「どういたしまして・・・って。久しぶりのテツヤちゃんに見惚れるあまり、私の話しちゃんと聞いてなかったわね・・・?」 「まーまー・・・一年半ぶりなんだ、仕方ねーだろ」 「どういたしまして~♪ ・・・ってそんなことよりレオ姉・・・グフッ、」 「なによ」 「ブフッ・・・黛さんもみんなも・・・レオ姉の雄たけび耳にしたとたん・・・ブッフォ・・・」 「はぁ~? いうに事欠いて雄たけびってアンタ、レディに対してなんて失礼な! って、いえそんなことよりよ、こんなおめでたい日に叫ばなくていつ叫ぶってのよ・・・?!」 「ククッ・・・確かに! そりゃそうだ!」 「でっしょ~? ・・・けどそれにしたって黛さんも小太郎も栄吉まで・・・! みんな笑いすぎ!」 「あ~・・・わりいわりい」  ――年甲斐もなくぴょんぴょん飛び跳ねてみたり、千切れんばかりにぶんぶん手を振ってみたりしながら、全身全霊で新たな二人の門出を祝ってくれる・・・そのいい年した大人とは到底思えぬはしゃぎっぷりがあまりにツボにはまりすぎて、とうとう撮影どころではなくなってしまい・・・。 撮影のため手にしていたスマホを盛大に手ブレさせつつ、『クックックッ』だの『あっはっはっ!』だの『も、マジムリ! 腹いてぇ!』だの・・・クールと評判の彼らしからぬ笑い声を漏らしつつ抱腹絶倒してみせる第一秘書様とに見送られ(?)ながら――。  「・・・お帰り、テツヤ。よく戻ってくれたね」 「いや・・・ええ、はい、」  とうに車内だというのにも関わらず、なんだか眩しそうにしているというか・・・。 それかもしくは、さも嬉しそうにも、はたまたどこか懐かしそうにも、なんなら・・・今にも泣きだしそうにすら見えるその――。  あまりにも多くの感情が複雑にまじりあった結果、なんとも言いようのない表情を浮かべることとなった見目麗しい美男に・・・穴が開きそうなほどじっと凝視されながら名を呼ばれたとたん覚えたとたん覚えた・・・。 頭のてっぺんあたりをぞわりと逆なでしていった不快な罪悪感につられ、つい視線をそらしそうになったのを・・・。  その気配を当の黒子より一瞬早く察するや、そうはさせじとばかり。 もうすっかり習い性にまでなっている仕草を応用し。木枯らしに嬲られ、うっすら桃色に色づいたかさかさほっぺを撫でていたわろうと・・・差し出しかけていた人差し指と中指の腹でもってクイと顎を持ち上げて。 ゆらり小さく揺れた瞳の奥を、なにもかもを包み込むような柔らかな視線で覗き込んでおいてから。 改めて「実渕から聞いたよ・・・つい三か月前まで(青年海外協力隊として派遣された)ミクロネシアで(小学校の)先生をしていたんだって?」と。 さらには「・・・どうせお前のことだ、面倒がって日に焼けるままにしてたんだろう。ちゃんとケアしないから、ほっぺも唇もずいぶん荒れてしまってるじゃないか」とかいうお小言にかこつけて、これ幸いとばかりそのもち肌の感触を堪能しまくるうち、またたく間にたどり着いた―――。 「改めて今日は世話になったね」 「いえいえ、どういたしまして」 「この礼は近々必ずさせもらう」 「おっ?! ご褒美期待してます、社長様!!」 「ハハッ・・・それじゃ留守中のこと、くれぐれも頼んだよ」 「お任せあれ~!」  本社から車でわずか10分ほどの場所に建てられた、赤司グループ・不動産部門が管理運営する高層マンションの前で、ここまで送り届けてくれた・・・海外営業部係長の葉山と、スポーツ振興課・バスケットボール部門事務長の根武谷の二人に礼を述べたのち、通常業務に戻る彼らを見送ったところでいよいよ・・・・・・。

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