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第8話
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「ほらテツヤ起きて? そろそろ夕食にしよう」
「やぁ、・・・あとごふん・・・」
「ダメ」
「う~・・・おきら、れない、の、あかしく・・・のせい、なのに」
「それでもダァ~・・・メッ!」
・・・が案の定、予想に違わぬお決まり文句を繰り出しつつ・・・まだまだ籠城を決め込むつもりの彼から力尽くで布団を奪い、「やだー、まだ寝るー、あかしくんのいけずー」と全裸で文句たれる口の悪いコに「わかったわかった、いけずいけず」と鸚鵡返ししながらお揃いのバスローブ(いつ帰ってきてもいいよう、準備を怠ったことがない)を着せてやってから・・・。
「(そりゃお前が帰ってきてくれただけでとっくに最高の誕生日だけど)・・・ってことは今年は『おめでとう』って言ってくれないの?」
「! そうでしたボクそのために帰って「バースデーケーキの代わりにって、実渕がお前の好きなほら・・・四越の「え、それってノワ・ドゥ・ブールの(イチゴショート)・・・?」」
「そうそれそれ・・・って、ククッ・・・(夕食じゃなく)ケーキって単語で腹の虫が鳴き出すあたり・・・ほんとお前らしいっていうか・・・フッ、」
――だってしかたがないんですと・・・。昨日はいろいろ思うところがあって(いよいよ明日君と再会するんだって思ったら、それどころじゃなくなって)食事どころじゃなかったから・・・。
「だから早くお祝いしましょう(=さっさとケーキ寄越せ)」と変なところで強がってみせる、負けず嫌いがきゅるきゅる鳴らす、なんとも可愛らしい音をからかいながら・・・赤司の実家でともに暮らしていたころから愛用している、ラタンで編まれたベッドトレイテーブルに温められた折詰と吸い物を乗せ。
「そういうことならますます・・・まずはちゃんと食事を摂らないと」
「えー、けどボクの口もうケーキになっちゃ「なってもダメ」」
「・・・けち・・・」
「なるほど、今度はけちと来たか・・・けどね? テツヤ」
・・・スイーツはあくまでデザートであって、食事にすべきものじゃないって・・・ほかならぬテツヤの身体のためを思って言ってるんだよ? わかるよね? ・・・などと小さい子に言い聞かせるみたいな口を利きながら、掛け布団の下に隠れた太ももをまたぐようにトレーから伸びる4つの脚を配置する。
・・・そして。
「でもこれ全部は・・・」
「そう来ると思った・・・から、そうだね・・・オレとはんぶんこってことなら・・・?」
「でしたらまあギリギリなんとか・・・」
「よし、じゃあ「ん~、でもこれ一個半って結構な量・・・って。あ、けど心配いらないですね・・・君案外食べる人でしたっけ」」
「しかもテツヤを抱いた後だし・・・って?」
「しかも一回だけって言ったくせして三回も・・・!」
「・・・がそのおかげで最高の誕生日プレゼントが三つももらえて嬉しかったし、久しぶりにお前を抱けてすごく幸せだった」
「それもこれもテツヤがワガママを許してくれたおかげだ・・・ありがとう」
「うぅ~・・・もう! そんなふうに言われたら、これ以上文句言えなくなるじゃないですか・・・ズルイです」
「うん、ゴメンね」
ぷうと頬を膨らませつつ、ベッドサイドに横向きに腰掛ける赤司からプイと視線をそらし拗ねてみせた彼の・・・これ見よがしに突き出された唇の前に、“テツヤほら、あ~ん”とかぼちゃの煮つけを差し出してご機嫌を取ってみたりと・・・。
以前同居していた赤司邸でも割と頻繁に見受けられた(が、もちろんのこと・・・教育の行き届いた使用人たちは言われてなくともちゃーんと、見て見ぬふりをしてくれていた)犬も食わぬ夫婦喧嘩ならぬ・・・『いったいどこの新婚さんだか?』と、思わず嘆息交じりに愚痴りたくなるくらいのイチャラブタイムを、小一時間ほど楽しんだのち。
「その感じだと・・・風呂は一寝入りしてからの方がいいかな?」
デザートのケーキまで無事腹に収めたことで、あっちにうっちゃっていたはずの眠気が再び勢いを取り戻し始め・・・たのに抗うように。重くなってきた瞼をしぱしぱしてみたり、くしくし擦ってみたりし始めた、その幼気に過ぎる仕草に内心盛大に萌えきゅんしつつ。
手際よく二人分のトレーをひとまず邪魔にならない場所に片づけ。
そして・・・。
「ん-・・・」
・・・と。まどろみつつ否定だか肯定だか判断しかねる曖昧な返答を寄越す彼に。
「心配しないでも、(寝顔を眺めるついでに)ざっと身体は拭いてキレイにしておいたし、」
「ん、いつもすみ、ませ・・・」
「どういたしまして」
「・・・あとそれにどのみちまた(目が覚めたらセックス)するんだし? それが終わってからでも・・・ね?」
・・・とかなんとか。
なにやら・・・そこはかとなく物騒な予告なぞしれっとかましながら、再び隣を陣取って。
「ほらおいで」と抱き寄せられるのにまかせ、素直に体重を預けてきた痩身の背を――『ほんと・・・この人いつ体鍛えてるんだろう?』と見るたび思わずにはおれない、その現役のアスリート張りに鍛え上げられた左腕で支えつつ。
横向きでマットレスに着地した懐の中に、抱き枕でも抱えこむように・・・お揃いのバスローブを纏った最愛をすっぽり閉じ込め。
「ふふ・・・おやすみ、テツヤ」
今宵の枕代わりを務める胸板が纏う、シャーリングの肌触りと・・・ふうわり漂ってきたジンジャーリリーの残り香に(実渕推奨のボタニカルシャンプー)促されるように、鼻先や額をサラサラの生地にぐりぐり押し付け、『はふ』と幸せなため息をこぼしつつベストポジションを模索する水色頭の先にチュッと口づけ。
――さてではそろそろオレもと目を閉じかけた、まさにその瞬間。
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