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第11話
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「緑間君のことだからきっとさっきのは・・・“オレのシュートは落ちん!”とかいう、例の決め台詞言いながらハーフコート3P打ったと思うんですよね」
あの振り向きざまの“眼鏡クイッ“からのどや顔はそうに違いないですと・・・。
第一クオーター終了間際、パスカットの際のこぼれ球を拾うや電光石火で放たれ・・・そして当たり前みたいにゴールに吸い込まれていった衝撃的な一発に――ハーフタイムに突入しても依然、ドスの利いた“shin-chan”コールで本拠たるTDガーデンが沸き返る中。
・・・一連のプレーを中継先の日本で見守っていた解説者たちまでが、隠しきれぬ興奮で鼻息を荒くしつつ、何度もリプレイしてみせる映像を。
どこか愉快そうにも、誇らしげにもしながら飽きることなく・・・いっそ芸術的ですらあるボールの軌道や、膨大な練習に裏打ちされた揺るぎないシュートフォームを見つめる彼の顎をつかみ「――テツヤ」と名を呼びながら振り向かせ。
そして辛抱溜まらんとばかり唇を奪い、「はい」と返事するため開けられた隙間にすかさず舌を差し入れては・・・。
当初の予定よりちょっとどころかだいぶ早いが、それもこれも・・・『せっかく我慢しようと思っていたのに、テツヤが煽るのが悪い』と襲い掛かった相手に責任転嫁しながら・・・。
その巧みな舌遣いによってあっけなく蕩かされ、芯を失ってくたり寄りかかってきた身体を、『狙い通り』としたり顔で押し倒し・・・たことによりやむなく離れ離れになった――。
もういっそ食べてしまいたいくらいウマそうに色づいた桃色に・・・吸い寄せられるように利き手を伸ばし、親指の腹ですっと横にひと撫で・・・のち、ニ・三度フニフニと押して感触を愉しんでおいてから。
では今度はこっちとばかり・・・早朝の寝室を満たす光を反射してゆらりと揺れるうるんだ瞳の中に映る――夜の魔王モードにほぼ切り替えが完了しつつある己の姿については見て見ぬふりをしつつ、『それじゃいただきます』と・・・めくれた掛け布団の上に転がした仰向けの身体にのしかかろうとした矢先、パクっと・・・・・・。
「テツヤ?!」
瑞々しい旬のさくらんぼにそっくりな唇の上に、置かれたままになっていた親指の先をおもむろに咥え・・・たかと思ったら。
このわずかの間に二度までも・・・。
全く予期していなかった会心の一撃を食らって、まんまと挙動停止に追い込まれた――政財界を牛耳るお偉方ですら、一目も二目も置くほどの男を・・・。
「(神聖な)試合のさいちゅ、ぅに・・・ン・・・おイタしちゃ“めっ”です」とか・・・。
「ほら緑間君だって見てますし、だから続きは試合が終わってから・・・ね?」とか――まるで小学校・・・いや、幼稚園の先生みたいな口調で諫め、諭そうとするのに対し。
『いやいやそう言うテツヤの方がよっぽどやらしいことしてる・・・っていうか誘っているようにしか見えないんだが・・・それは?』とか。
『おイタしちゃ“めっ”ってね・・・そうやってなにか(主に黒子不足が要因)あるたび、いい大人をつかまえて子供扱い・・・するのも許されるのも、世間広しと言えどお前くらいだってわかってる?』とか
『――がまあ、そうはいいつつ膝枕も“よしよし”も、“いいこいいこ”もどれももっとしてくれても構わないんだよ・・・?』とかなんとか心の中で盛大に突っ込んでみたり、注文をつけてみたりしながらも。
・・・そうはいえ、実際今はまだ黒子に激しい運動をさせるわけにいかないのも(せっかく食べたものが出てきてしまうので)、あとなにより・・・。
もっと優先すべきことが多すぎて、すっかり後回しにしてしまっていたが――一年半前のあの日に、その身体一つきりで家を出て行ったテツヤの・・・代わりにみたいに、ポツンと残されていた(婚約&結婚)指輪をもとあった場所に返さなきゃならないしと・・・渋々ながらも気持ちを切り替えることにして。
まずは断腸の思いで、黒子が今も咥えたままにしている親指を引き抜き、ついで仰向けの身体を抱き起し、再び背後から抱きかかえてソファ役に復帰。
「へぇ・・・またいっそう(ボール)ハンドリングが上達したね緑間は」
「そのおかげで、ただパスを待つだけじゃなく・・・自分次第でいくらでもシュートチャンスを作り出せるようになったから、また一段と手強いチームになった」
「ええ、確かに。・・・でも“勝てねぇくれーがちょうどいい”とか“オレに勝てるのはオレだけだ”が口癖の人たちだっていることですし? そう簡単に連覇はさせてもらえないんじゃないですかね」
・・・元さやに収まったばかりの最愛の言動に悦んで振り回されている間に、残り半分ほどまで時計の進んでいた第二クオーターを仲良く観戦・・・していたはずが。
「ところで赤司君」
「ん-?」
「さっきからずっと・・・(尻の付け根あたりに)なんか硬いのが当たってるんですけど・・・」
「ん? ああ、これのこと」
「ぅわっ・・・もう、わざわざ押し付けなくていい「ってお前ねぇ・・・」」
「なんです?」
「さんざ煽ってその気にさせといて、その言い草はないんじゃない?」」
「煽ったって・・・ボクがですか? いつ・・・」
そのいかにも解説者然とした、落ち着いた口ぶりとは裏腹にもほどがある・・・元気いっぱいすぎな下半身に危機感を覚え(実際昨晩も啼かされまくったばかりだし)、二度目の牽制をを試みる。
・・・が敵もさるもの。
「はぁ~・・・まったく。これだから無自覚の天然は・・・」
「って何かにつけキミそういいますけど、ボク天然じゃ「残念だがそう思ってるのはお前くらいなものだ」」
見た目に反して誰よりガンコなこの子が意を翻すなど、まずありえない――ということは、だ。『どのみち待てしなきゃならないなら今のうちに』とばかり、伴侶の左の手のひらを恋人つなぎしながら下から掬い上げ。
「そんなこと「あるさ。なんならこの結婚指輪を賭けてもいい」」
・・・なんて軽口の一つもたたきながら。繋いだ手をさらに――その反抗的な口ぶりとは裏腹に、されるがまま行く末を見守る水色の瞳の高さまで持ち上げたら。
「ゆびわ・・・? ・・・って、コレ・・・!」
今度はボルドー色のバスローブの右ポッケに忍ばせてあった、対のリングのうちの片方を半年間に及ぶ海外支援活動のなごりを残す――手荒れの目立つ薬指に嵌めたなら。
「捨てずにとっといてくれたんですか」
「そりゃ・・・何年かかっても、必ずお前を見つけ出し連れ戻すつもりでいたからね」
「・・・で事実その通りになったからには。今日からはまたお前が持ち主ってことで・・・だからね、テツヤ」
「・・・ん?」
未だ繋いだままでいる掌同士を結んだり開いてみたりと。
・・・一年半ぶりに互いの薬指で輝くお揃いのプラチナを、わざと音がなるように・・・存在を誇示するようにカチカチぶつけ合う手遊びにかこつけ。
最愛の人のとの復縁がよりによって――腹心の部下でもあり、大事な仲間でもある彼らによる尽力と心にくい演出のおかげもあって――自身の誕生日に叶った幸運をひしひしと実感、感謝しつつ・・・。
「――テツヤ」
「ええ、はい」
さあこれですべてが収まるべきところへ収まった。
支度が整った。
だから後は赤司だけを愛し、癒し、しあわせにするために在る“籠の鳥“(青い鳥)として――・・・。
「・・・死が互いを分かつその時までオレに囚われ、独占され、愛され続けること――オレを幸せにする、ただそのためだけに生きること。それがお前に課せられた罰だ」と。
いくらオレのためを思ってのこととは言え、逃げ出した罪は重い。
よって上訴も抗告も・・・まして恩赦などしてやるつもりも毛頭ない。
反省も後悔も全部このオレのそばでするんだ――「・・・いいね?」とそう。
恋人つなぎにしたまま今度は・・・水色の瞳の目の前から、赤司の半分ほどの厚みしかない肩の前まで引き寄せた・・・左手薬指に輝くプラチナと・・・そして。
『明日出社したら忘れないうちに・・・実渕に、どこのなんていうハンドクリームを買えばいいか尋ねないとな』なんて。頭の隅で休日明けの予定を立ててみたりなどしながら。
海外協力隊の一員として半年の間、面倒だからと大した対策をすることもないまま・・・。
常夏のミクロネシアで強い陽射しを浴び続けのがたたり、かさつき荒れる肌を気にするふうでもなく放置しっぱなしの・・・いっそ呆れるくらい無頓着な当人になりかわって、いたわるようにそっと・・・恭しく口づけながら「今ここで改めて、ちゃんと誓いなさい」と甘く脅しをかける・・・・・・。
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