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20 佑

「でっかい鯉泳いでるよ、佑。」 「食えっかな?」 「んー、食えないこと無いだろうけど不味いんじゃない?」 「本日のお料理にお出ししましょうか?」 「あ?」 ロビーで交わしていた会話に若い女の声が加わる。 振り向けば着物を着た女性がクスクスと笑っていた。 「お部屋をご案内いたしますね。どうぞ。」 そう言ってヒョイッと二人分の荷物を下げ歩き出すのを、「どうも」と追いかける。 「…重いんで、持ちます」 女に荷物持たせるのもどうかと、エレベーターが到着するのを待つ間に細い手から荷物を取る。 「大丈夫ですよ、新藤さま。」 クスリと笑いながらまた荷物を預かろうとするのに「俺のが力あるんで」と返せば、はにかんだように笑った。 …へぇ、悪くないな。 その困ったような、照れたような表情にフッと笑えば、女性は慌てて視線を反らした。 バシッ! 「って!何すんだ、東矢」 急に後頭部を叩かれ、隣に立つ東矢に視線を投げた。 「エレベーター来たよ。」 どこか仏頂面のまま告げる東矢に「叩く意味ねぇだろ」とぼやけば、フンッと鼻を鳴らされた。 「佑って、ほんと無自覚ホイホイだよな。」 「あ?」 エレベーターに乗り込みながら呟かれた言葉はあまりにも小さくて、聞き取ることができなかった。

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