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21 東矢
通された部屋で緑茶を啜りながら置かれていた案内書に目を通す。
…振りをして、佑を伺う。
いつもと変わらない、黒のTシャツにジーンズ。
暑い暑いって文句言うくせに、熱吸収の良い黒着るとか…人のことバカバカ言ってるけど佑のがバカなんじゃなかろうか。
女ったらしだし。
甘いもん嫌いなくせに甘いセリフは割りと平気で使うし。
女ったらしだし。
バイトで疲れてるくせに俺の荷物まで運ぶし。
女ったらしだし。
って、何だ?俺。
佑が無自覚ホイホイなのは今に始まったことじゃ無いのに、何でこんなにさっきのこと気にしてるんだ?
当の本人は部屋に入った途端に「マジ楽園…」とか言って転んで、中居さんの説明は全部俺が聞いたってのに。
お茶を淹れてくれている間もダラダラして、逆にこっちが『すみません、こいつだらけてて…』って謝ったくらいなのに。
中居さんが退室してやっと体を起こしたかと思えば、『冷たい緑茶とか気が利いてんな』と意気揚々と飲み始めた佑。
染めてないのに茶色い短髪は少しだけセットされていて、片耳に光るピアスが日に焼けた肌に映えてやっぱり色っぽい。
男前って言うんだろうなぁ、こういうの。
胡座をかいてスマホを弄るその姿に思わず見とれていれば、チラッと視線を投げられた。
「んだよ、さっきからジロジロと。」
「あ、ばれてた。」
どうやら気付いていたらしい様子に苦笑すれば「変なヤツ。」と笑われた。
そのいつもと変わらない態度に「佑に言われたくない」と返し、案内書をテーブルに置く。
「どうする?このあと。」
「んー…寝てぇ」
「はい、却下。」
「はぇえな、答えるの」
予想通りの答えに笑えば「ならちょっと出るか?」と佑が窓の外を見る。
それにつられて窓の外を見れば、まだ陽射しは強くて気温の高さが予想できた。
「佑、溶けちゃわない?」
「おー…自信あるわー…」
そう言いながらも財布を片手に立ち上がるのに俺も続けば、チャラ…と部屋の鍵を渡された。
「フロント任せた。喋るのたりぃ。」
「それほどですか。」
旅館の人間と話すのも面倒らしいその様子に苦笑しながらも、佑がさっきの中居さんにそれほど興味を抱いていない事実にどこかホッとした。
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