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23 東矢

西日を背に、おばちゃんオススメだと言う足湯へと向かう。 温泉街の賑やかな通りから少し外れ、古い町並みをゆっくりと散歩する。 静かな通りには小さな用水路が流れ、民家の前で飼われている鯉が時折跳ねるのを聞きながら進んだ。 やがて隣を歩く佑が「っち~…」とうだり、俺の肩に手を置き体重を掛けてくる。 「重いよ。」 「あ゛~…溶ける…」 「溶けたら日本酒俺が二本とも貰えるね。」 「てめ、口つけたら殺す…」 「じゃあ頑張って溶けないで。」 笑いながら背中に手を回しバンッと叩いた。 汗ばんだシャツ。 肌に触れる佑の硬い身体。 鼻腔を擽る汗とアルコールの匂い。 呻き声と共に吐き出される息。 近すぎる体温… これが佑以外の人間なら、とてもじゃないけど堪えられない。 「ってぇな…後でやり返す。」 ギロッと睨んでくるのに「怖いよ!」と返し、そのまま肩を支えるようにして歩く。 なんで佑だと平気なのかなぁ… 肩に項垂れる佑の頭を視界の端に捕らえながら、むしろこの体温を心地よく感じている自分に首を捻ったー。 「あ、あそこじゃない?」 屋根のある小さな休憩所。 僅かに立ち上る湯気と水の流れる音が近づくにつれだんだんとハッキリとしてくる。 木造の腰掛けと石造りの湯船。 ふくらはぎまで浸かりそうな深さの湯が流れ、西日に照らされキラキラと光る。 「「おぉ…」」 これぞ足湯!といった雰囲気のそこに、佑と声が被った。 俺達の他に利用客がいないことに、本当に穴場だったと嬉しくなる。 「やべぇ、思ったよりテンション上がってきた。」 静かな場所を好む佑にとって、ここはドンピシャなのだろう。 向かいに座りジーンズの裾を上げる様子が嬉しそうだ。 「よく考えたらタオル無いね。」 「あ?」 まさに足を浸けようとした瞬間告げれば、ピタリと止まった佑がこちらを見た。 その顔が面白がるようにニヤッと歪む。 あ、この顔… 「あっちぃ!」 その表情に身構えたのと、バシャッと体に熱い湯が掛けられたのは同時。 見れば佑の長い足が湯を蹴りあげ濡れている。 「何がタオルだ。女みてぇなこと言ってんなよ。」 「ちょっ、濡れるってば!」 「さっきの仕返し。」 声を出して笑いながらまた湯を蹴りあげてくる。 無邪気なその顔は子供の頃と変わらない表情で、楽しそうな佑の笑い声につられ俺もゲラゲラと笑った。

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