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27 佑
ガチャン…!
路地に響く無情な音と立ち上るアルコールの匂い。
東矢の足元に落ちた買い物は日本酒が入っていたものだ。
完璧割れたそれに気を取られたのは一瞬で、俺の視線は東矢に釘付けになっていた。
「う゛、あ…」
絞り出すような苦し気な声。
羽交い締めしてくる男の腕を掴む東矢の表情は青褪めていた。
どこを見ているのか分からない視線、けれども眉間に刻まれた皺はくっきりと深くて。
目に見えて呼吸が速くなり、ガクガクと身体が震えている。
チッ…
無意識に舌打ちが溢れる。
それはあまりにも覚えのある症状。
あの日と同じだ。
フラッシュバックしてる。
中学のとき、クソ野郎に襲われてから他人との接触がダメになった東矢。
男から羽交い締めなんかされて平気な訳がない。
ましてや、あの日と同じ季節と時間帯。
フラッシュバックを起こしたっておかしくはない。
「…離せよ」
「っ、な…」
静かに告げる。
ポツリと洩れた声が驚くほど冷たい。
その声を聞いてビクッと体を震わせると、男は東矢を捕らえたまま一歩下がった。
「聞こえなかったのか?東矢を離せ。」
視線を東矢から男へと移す。
怯えた表情と、パクパクと動く口。
ゆっくりと一歩踏み出せば男はますます下がった。
「く、く、くるな!!」
東矢を捕らえた腕が片方外されワタワタと空を切る。
その様子にますます苛立ち、気づけばその手を掴んで捻り上げていた。
「離せっつってんだろうが!!!」
「ひぃ!!!!」
腹の底からの怒声。
路地に響き渡るその声に、東矢がハッとしたように顔を上げた。
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