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28 東矢

脇に差し込まれた腕。 耳にかかる男の吐息。 アルコールの匂いに混ざった血の香り。 ハァハァと荒く、けれど怒りに満ちた声。 汗ばむ背中に張り付いた他人の熱。 近すぎる体温… 「う、あ…」 暑かった身体が一気に冷え込んでいく。 ガチャン…!とカップが割れる音が遠くに聞こえた。 ガクガクと震え出す身体を止めることができない。 目の前が霞む。 『ねぇ、いい?いい?』 上擦った声と共に吹き付けられた男の生臭い息が一気に甦り、現実と記憶が混ざる… 身体に巻き付いた腕はあの日の男のものなのか? 生ぬるい鼻をつくこの匂いは、あの男のもの? …今、俺は…何をされている…? いやだ、離せ、 離せ、 俺に触るな………!!! 「離せっつってんだろうが!!!」 パニックに陥った頭に響く怒声。 記憶が断ちきられるような感覚に、目の前がハッキリとする。 「た、すく…?」 いつの間に側に来ていたのか、男の腕を捻り上げているその姿を認識した途端、体の力が一気に抜けた。 その場にしゃがみこんだ俺にチラッと視線だけ向けると、佑の口元がクッと上がった。

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