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2.佑

俺と東矢が出会ったのは小4の時。 親の転勤の都合で隣の家に越してきた東矢を見て、「うわぁ、カッコイイ。」と姉貴が呟いたのを覚えている。 さらりとした黒髪、切れ長の目に通った鼻筋。 いわゆる育ちの良さそうな坊っちゃんタイプ。 弟の俺とは全くタイプの違う隣人にウキウキとしている姉貴の側で、内心『ないわー』と呟いた。 「お隣に越してきた七尾東矢くん。佑、仲良くね。ほら挨拶なさい。」 「どーも。しんどうたすくです...」 「ちんどう?」 母親に促されて嫌々ながらも声をかけた俺に、東矢は嬉しそうにそう言った。 「ちげーよ。新藤だよ。」 「新藤か。ちんどうならエロくて面白いのに....イタッ!」   「東矢、いい加減にしなさい!...息子が失礼言って申し訳ありません。」 あ、こいつバカだ。 そう思ったのと、おばさんが東矢にゲンコツ入れたのは同時だった。 深々と頭を下げるおばさんの横で、頭を撫でながら小さく会釈する東矢。 その姿は一見反省しているようだったが、俺と目が合った途端にニカッと笑った。 初対面から失礼かましてくれた同い年の隣人。 見た目と中身のギャップに驚いたのは一瞬のことで、こいつとはもしかしたら仲良く出来るかもしれない...そう思った。 そうしてカッコイイおぼっちゃまから一気にバカに降格した東矢と俺は、当たり前のように一緒に過ごすようになり、学校から帰ってからも何かと二人で遊ぶようになった。 数年後、高校に進む頃には互いが空気のような存在で、周りからも二人でワンセットのような扱いを受けるようになっていた。 その後、大学進学と共に一人暮らしを始めることにした俺に『佑居ないのつまんない...』と訳の分からない理由を告げ、東矢は隣の部屋に越してきた。 そうして互いの部屋を行き来しながら生活するようになってから2年が経とうとしている。 そういや、おばさんもおじさんも、よく東矢が一人暮らしするのに反対しなかったな。 自宅からの方が東矢の通う大学には近いってのにー。 「おい、起きろよ東矢。」 「..........ん...」 結局自分の部屋に帰らず、たいして広くもない部屋で雑魚寝した。 寒くて目が覚め時計を確認すれば、日付が変わろうとしている。 隣を見ればベッドがあるにも拘わらず体を丸めて同じように雑魚寝している東矢の姿があって。 「『ん』じゃねー。起きろって、このバカが。ベッド行けっつーの。」 「...ん~.....」 こっちを向いてスヤスヤと眠る東矢の肩を足で何度も揺らしてみる。 ダメだ、完全に寝入ってやがる... 腕を伸ばしてベッドから布団を引きずり落とし、東矢の体に掛けてやる。 モゾモゾと体を動かしながらも起きる気配のない東矢に呆れた笑いが溢れた。 見た目も趣味も嗜好も、東矢と俺とでは全然違う。 好きなスポーツも、食いもんも、女の好みも。 ここまで違うといっそ清々しいくらいだ。 似ているとすれば体格くらいなもんか? 共通するものが有るわけじゃないってのに...だけどこいつと過ごす時間は不思議と心地よくて。 違う大学に通い互いの生活とダチが変わってからも、東矢だけは当たり前のようにこうして側にいる。 「........バカ面。」 安心しきって眠っているその顔に、思わず口をついて出たのは悪態で。 さっきまで落ち込んでいたくせにと、フッと笑いが溢れた。 あんなことがあったからな。 『エッチが下手くそ』 この言葉に思い当たる節があるだけに、東矢の無防備な寝顔に少しだけ安心する。 ..........ねむ。さみーし、自分の部屋に戻っかな。 今からあの薄い布団を引っ張り出すのも億劫だし。 あくびを噛み殺し立ち上がろうとした時、ふとスマホの画面が光っているのが視界に入った。 「あー...。」 小さく呟き、そのままごろんと寝転がる。 帰るの面倒くさくなった。 サイレントにしているから目を閉じてしまえばその存在が気になることもない。 こんな時間にかけてくる相手は決まってるし、言われるセリフも分かってる。 それに...今はあの高い声を聞いても可愛いとは思えない。 「さむ...」 東矢に掛けてやった布団に潜り込み、俺は今度こそ深い眠りについたー。

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